第5章 遭遇
「ちゃん、どうしたん?」
ハッと我に返る。
声のする方を見ると麗日さんが心配そうに顔を覗きこんでいた。
「………な、んでもないよ」
「そう?何か悩んでいるように見えたんやけど」
「…………疲れた、だけ」
「それならええんやけど。もうみんな帰ったからさ」
教室を見渡すと誰もいなくなっていた。
この場にいるのは私と麗日さんだけ。
動かない私を心配して残ってくれていたらしい。
「大丈夫。もう少ししたら帰るよ」
「暗くならんうちにね」
「うん」
バイバイと手を振って彼女を見送った。
誰もいなくなった教室はとても静かで、時計の針だけがやけに大きく聞こえた。
帰らなきゃ。
頭ではわかっているのに、身体が重たい。
帰らなきゃ。
光己さんたちが待ってる。
もし、もし、今日……人を殺していたなら、光己さんや勝さんは笑顔で私を迎えてくれるだろうか。
怖い。
巨悪のヴィランと対峙するよりも、自分の"個性"で人を殺してしまう可能性があるという事実が。
誰かを悲しませてしまうかもしれないのが。
とても怖い。
みんなは、どうなんだろう。
こんなふうに思ったりしているのかな。
しているんだったら、どう向き合っているんだろう。