第5章 遭遇
男は私たちを見つめ、両手を広げて雄弁に語り始めた。
「なぁ、おかしいと思わないか。そこの地味なやつ。あいつ、俺に思いっ切り殴りかかろうとしたぜ?そっちの女なんて、見ろよ。ライフルなんて危ないもんで俺を撃ったんだ。こんなもん心臓に当たってみろよ、今頃俺はあの世だ。おかしいじゃないか。他が為に振るう暴力は美談になるのか?なるんだろうな。そうなんだろ、ヒーロー?」
男の言葉に私は唇を噛みしめた。
反論、できない。
だって、男の言う通りだから。
「俺はな、オールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!!何が平和の象徴!!所詮、抑圧の為の暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」
「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」
「バレるの早……」
そこからは早かった。
オールマイト先生が化け物を何発も殴り、最後の一発を決めると化け物は漫画のように建物の外へと吹き飛ばされた。
飯田くんが呼びに行った先生方も訓練場に到着し、まだ制圧しきれていないヴィラン達を確保し始めるが、主犯格である男とモヤモヤは取り逃がしてしまった。
それでも、この戦いは無事に終焉を迎えた。
この戦いを経て私達は痛感する。
プロヒーローが相手にしているものを、世界を。
私達が経験するにはあまりにも早すぎて、自分たちがいかに無力なのかを思い知った。