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依々恋々 -Another story(under)-

第17章 気持ちのベクトル



 ✜

「本当に、すいません」
「気にするな、好きで来てんだ」
少し赤い顔で、ジャケットのポケットにカードケースをしまうシャンクスに、ごちそうさまです!とまだまともに立てる社員たちが頭を下げる。

「互助会の申請しとけよ」
店員から受け取ったレシートを幹事役の部下に渡した。
「え、や、でも」
手出ししてないし、と返そうとする部下に、ニッ、と笑う。

「時には強かさも必要だ」
「...ありがとうございます!」
大衆居酒屋とはいえあの人数なので、会社の福利厚生である「交友援助費」を申請すれば、全員の明日の夕飯代くらいは浮くだろう。
座敷で足を崩した無礼講の飲み会で、程よく気分良くなったシャンクスは、じゃあな、と手を挙げて背を向けた。

「「「「ごちそうさまです!ありがとうございました」」」」
ゆらゆらと手を振り、大通りの人波に身を任せた。

今日の飲み会は、同時期に入社した者の集まりで、所属部署柄、幹部と顔を合わせる機会の少ない者が集まっていた。
「たまには仕事に関係無い、普通の飲み会に来てみません?」と総務所属の幹事が声をかけてくれ、特に予定があったわけでもないので二つ返事で参加した。
駅近のチェーンの大衆居酒屋に「お疲れさん」と突然現れたシャンクスに、参加者はネクタイを締め直したりシャツの裾をしまったりしたが、最後にはあの通りだった。

久しぶりに「酒を飲むことが目的」の飲み会だったな、といい気分で鼻歌を歌う。
住居層についたエレベータで携帯を取り出すと、ふと気づく。

(確か、明日、休みか)

月の休みが確定するとジウが入力するアプリのカレンダーを確認する。

(休みだな)
着替えたら部屋まで行こうか、と携帯を眺めながら考えていると、扉が開いた。
起きてるか怪しい時間だな、と思いながら共有廊下を進む。
カードケースのルームキーで自宅を解錠する。

「ん?」

適当に脱いだはずのサンダルが揃えられ、隣にはネイビーのローファが並んでいる。

「ジウ?」

いるのか?と顔を上げると、いい匂いがしている。

ジウが来ている、と確信し、ただいま、と靴を脱ぐ。

廊下の先の扉を開ける。

香りの下のキッチンに姿はない。

「ジウ?」

寝室か?と脱いだジャケットを置いたソファに、小さくなって眠るジウがいた。
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