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依々恋々 -Another story(under)-

第17章 気持ちのベクトル



ダン、とテーブルに置かれたジョッキに、お猪口の縁に口をつけたまま見上げる。

「らいひょう」
代表、と言いたかったのだろう。
真っ赤な顔に据わった目で見下ろす部下に、何だ?と笑いかける。

「おりぇ、やっぱ、この会社に骨ぇ埋めますけぇ!」
うう、と結んだ口から溢れる嗚咽。
「う、もう女なんか信じませんけぇのぉお」
うえぇ〜ん、と座り込んでテーブルに突っ伏してしまった。

「あー、そうかそうか。そりゃ嬉しいぞ〜」
泣け、泣け、と片手で丸まった背中を撫でる。


向かいに座る同じ部署の男に、何があったんだ、と問いかける。
そっと耳元で囁く。
「フラれたらしいっす。7年付き合った彼女に」
「なるほどな」
そりゃご愁傷さま、と肩を叩く。

「よしよし。悲しいなぁ」
「7年ですよっ!?7年!大学からずーっと。RedForceに入って3年目...俺、今年のクリスマスにプロポーズしようと思っとったとに...」
「そりゃあ、また...」
うう、とお国言葉で嘆く。
「もう、女は信じませんけぇ!代表にだけ、捧げますけぇのぉ!」
パッとシャンクスの手から奪ったお猪口の酒をぐい〜っと飲み干し、ひっく、と身体を揺らす。

「お前、飲み過ぎだぞ。社長の前で...」
「いい、いい。今日は無礼講だ」
飲んで忘れろっ!と凭れかかってくる部下を支えてやる。

「いいっすねぇ、代表は」
「うん?」
お猪口を見下ろし、だってっすよぉ、と続ける。 

「女なんか選び放題。いなくても生きていけるのに引く手数多。やっぱモテる男は違いますわぁ!」
あっはっはっ、と笑う彼を、お前いい加減にしろ、と別の部下が窘めた。

「でも、事実ですよねぇ?」
ねえ?と聞いてくる部下を笑って誤魔化す。

「いくら手を引かれようと、手を引いてほしい女にそっぽ向かれちゃ、さみしいもんだがな」

取り返した猪口に酒を酌み、一気に煽る。

「え?社長、まさかの片思い中?」
嘘でしょ、と驚く別の部下。

「片思い、なぁ。
 ある意味、近いのかもしれねぇなぁ」

細めた目を伏せ、僅かに笑ったシャンクスに、え、と周りは固まった。

「社長でも、オトせない女性がいますか」
一人の部下が聞くと、ああ、と小さく笑って頷く。

「なかなか、思い通りになってくれない女(ヒト)だ」
それがまたかわいいんだけどな、と、優しい顔で猪口に酒を注ぎ足した。
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