依々恋々 -Another story(under)-
第16章 君欲
✜
「シャン、」
「ん?」
呼ばれた方へ向くと、あーん、と差し出されるデザートスプーン。
🌸の前に置かれたプレートに最後のひとくちが残ってるのを確認して、パクリと食らいついた。
ココアパウダーがたっぷりのそれをジャック・ダニエルで流し込む。
最後のひとくちを、綺麗さっぱりとプレートから口へ運んだ🌸は、丁寧にスプーンをプレートに置いて、ご馳走様でした、と手を合わせた。
「誕生日でもないのに贅沢しちゃった」
フルーツを混ぜたティーソーダを飲み干し、充分すぎるほどに満足です、と空の食器たちに頭を垂れる🌸。
「誕生日なら、もっと飲んで食って騒ぐだろ」
「ホテルの部屋でフルコースなんて、ある意味女の子の憧れだと思うよ〜?」
「そんなもんか?」
グラスに移すのがめんどうなのか、ウイスキーを瓶ごとあおる。
「🌸の誕生日にはうちのジェット機を貸し切って、空を上で夜景を見ながらフルコースでも食うか?」
「うわ。やることがウェルシー...え?『うちのジェット』?」
酒瓶を掴み、🌸を見下ろす。
「レンタル事業に使ってるやつだ。
先週、追加で作成契約した。
『予約が取れない』とリピーターからクレーム入れられてな。人気のある6千から7千の価格帯のやつを2機」
「理解が追いつかないぃ。
6千から7千って円じゃないよねぇ。万だよねぇ。」
「『万』の『ドル』だな」
途方もない桁に、ひゃあ、と声を上げる🌸の手を取って、ベッドルームへ引き連れる。
「プロポーズなんかに割と人気だぞ。
レンタルだと単発なら1時間のフライトで...60〜70だったか」
「それさあ、イエス100%のケースじゃないと契約する勇気出ないよね?」
「どうなんだろうな?予約客の年齢層や乗客の関係性はマーケティングしてるが、プロポーズでの利用の割合と成功率は調べてない」
調べてみると面白いデータが取れそうだな、と🌸をベッドに乗せて、経営者らしいことを言う。
「確約割引でもつけるか?」
「イエスがもらえれば10%OFF?」
「そりゃあいい」
ケタケタ笑って、🌸の肩を抱き寄せ、ウイスキーを傾ける。
こてん、と肩に乗った頭に一つ、キスを落とすと、スリープ状態のテレビで「ノッティングヒルの恋人」の上映を始めた。