依々恋々 -Another story(under)-
第16章 君欲
インバウンド客向けか。
脱衣所に置かれていた、妙に不釣り合いな安っぽいシャボン玉をぷくー、と膨らませるジウ。
「お腹空いた」
「冷蔵庫に果物ならある。
飲み物はティーセットもあるから使っていい。
食いたいもんが無いならルームサービスを好きに頼め」
逆上せる前に上がれよ、と去る背中。
「一人で浸かったってつまらないじゃない」
わからず屋、と温もった身体をふかふかのタオルで拭き上げた。
✜
「ねえ、最寄りのコンビニってどこ?」
コンビニ?と洗いざらしの髪をタオルで拭きながら、腰紐の緩んだローブを着たシャンクスが歩み寄る。
「食いたいもの、なかったか?」
「えっと、」
目を泳がせたジウの手から、しっかりとした革のカバーのメニューを取る。
サンドイッチ(¥2,500)
お茶漬け(¥1,600)
肉うどん(¥1,760)
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最安値が「新鮮野菜サラダ Small ¥1,320」であることを確認した上での発言か、と気づき、ざっと目を通す。
備え付けの電話の受話器を取ったシャンクスが、ルームサービスを呼び出す。
「スモークサーモンのサラダ添え、カプレーゼとサーロインステーキ...和風。
ノンアルのティーカクテルとジャック・ダニエル、グラスは一つでいい。
あ、あと、ティラミスを一皿」
つらつらと注文されるメニューに、深夜に食べるメニューじゃない、と呆れつつ、炭水化物をオーダーしなかったシャンクスに感心するジウ。
「ご飯、食べてないの?」
「...寝てたからな」
「ごめんなさい」
あう、と俯くジウの手を引いてカウチにかけると、向かい合うように膝の上に抱き上げた。
「謝る必要ないだろ。
ふて寝させちまったのは俺のせいだ。
他に欲しいものは?
ステーキよりサーモンのソテーの気分だったか?
デザートにホールケーキも追加するか?」
「こんな時間にホールケーキなんて食べれないよ。
ティラミス好きだから嬉しい」
シャンクスと自身の額をコツリと合わせるジウ。
「変な時間に起きちゃった」
「たまにはオールナイトでもするか?」
いつもジウだけ寝ちまうからなぁ、と頬に唇を寄せた。