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依々恋々 -Another story(under)-

第16章 君欲



 ✜

優しく髪を撫でられる温もりに、意識がぷかりと浮かぶ。

パチ、と目を開けると、そこは真っ白な海で、かすかにその向こうに灯りを感じた。
ムクリと起き上がると、光たちがいびつに揺れる。

ぼんやりと座り込んでいると、そっと背後から包み込む熱。
モゾ、とシーツのテントの中で目元を擦る。

「起きたか?」
優しい声に、背中の体温に寄りかかる。
「何時?」
「...22時16分」
「何日?」
告げられた日付に、日付が変われば休みの土曜日と確認し、モゾ、とあぐらを組んでいる樣子の膝の間に収まって、温かな壁に凭れ掛かる。

「喉は?」
「乾いてない」
「痛むところは?」
「...無い」
「嫌いか?」

主語の無い問いに、ううん、と首を横に振る。

「これ、外していいか?」

シーツを被った頭を撫でられる。

「シャワーまで連れて行ってくれるなら」
「仰せのままに」

シーツで包み込んだままふわりと、と持ち上がる身体。
手探りで首に腕を回すと、広い肩に凭れる。

「はずすぞ」
スルリ、と落とされてシーツに、数束の髪があらぬ方向を向く。
「ほら、掴まれ」
首に手を回すと軽々と抱き上げられ、ペタペタと素足が樹皮の床につく音。

カコン、と風呂椅子が床に当たる音がして、キュ、と栓が回されると床を叩く無数の水音。
「髪はどうする?」
サァ、と優しく背中を流れている温水。
「洗ってくれるなら洗う」
「仰せのままに」

シャワーで程よく体を温めると、転倒防止のマットの上にドカリと座る。
「おら。水が入らねぇように上向け」
「んー」
目を閉じて顎を上げる仕草はキスをねだられているようにも見え、真白な肌を晒しているジウにゴクリ、と喉が鳴る。
その瞬間、パシリ、と膝小僧を叩かれた。

「えっちなことしたら噛みちぎるから」
「どこをだよ」
ケタケタ笑いながら、伸びたなぁ、と黒髪を濡らす。

「ねぇ、なんでヤクザの人って『指を詰める』っていうんだろうね?」
「唐突だな」
並ぶソープボトルのうち、シャンプーに手を伸ばす。

「ありゃ、『組み抜け』や『裏切り』のバツだからな。見えねぇ所に傷つくったところで意味がねぇから、わかりやすく手だったんだろ」

なるほど、と気持ちよさそうにしているジウの髪を懇切丁寧に磨き上げた。
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