依々恋々 -Another story(under)-
第16章 君欲
✜
「空いてる部屋でいい」
バレーサービスに鍵を押し付け、恭しく重たい扉を開けたドアマンを無視し、ジウの手を引いてツカツカとロビーを抜けたシャンクスは、カウンターで口を開いた。
「はい?」
フロントサービスは怪訝そうに顔を上げたが、シャンクスの顔を確認すると、ハッとして、しばらくお待ちください、と奥に引っ込んだ。
ジウの手を何度も握り返しながら、トン、トン、と指先でカウンターを叩くシャンクスの眉間には深い筋ができていて、一見、憤慨している様にしか見えない。
ラグジュアリーホテルに車で乗り込み、碌な荷物も無く、女の手を引いて入ってきたシャンクスにフロント従業員は怪訝そうな顔をした。
対応したフロントサービスが顔を顰めたのは一瞬で、禄に待たせもせず、最上階でお取りしました、とカードキーをカウンターに置いた。
掻っ攫うようにカードキーを取って、行くぞ、と踵を返すシャンクスに、すいません、ごめんなさい、と手を引かれながらジウはカウンターに謝った。
予約システムで鍵を渡した部屋に一泊の予約を入れたフロントサービスのチーフ。
内線を取ると、ルームサービス係に連絡を入れた。
「プレS01にF様ウォークイン。お供え、連絡入るまでD.D.。
ビール、日本酒、焼酎、ワイン、シャンパンそれぞれできるだけ確保を」
突然の連絡に、ホテルの従業員たちは慌てて酒類の確保に走った。
✜
カン、カン、と二人きりのエレベータの手摺に叩きつけられているカードキーを浅灼けた指先から抜き取る。
仰々しいほどの防犯カメラを睨みつけるシャンクスの手を落ち着かせるように撫でる。
チン、とついたエレベータの開いた扉を掻い潜るように出ると、そこは綺羅びやかなシャンデリアが等間隔に並ぶ絨毯廊下。
腕を引かれて早足になり、足がもつれそうになりながらも奥の部屋を目指すシャンクスについていく。
立ち止まったのは立派な扉の前で、抜き取られた鍵がシステムにかざされると、ガチャリ、と扉が開いた。
ゆっくりと開くそれを掻い潜るように入室すると、調度品などにも目もくれずベッドルームを目指すシャンクス。
天蓋付きのキングサイズベッド。
ジウの手から奪い取ったハンドバッグを、脱いだ自身のジャケットとともにカウチに置くと、ジウの肩を押した。