依々恋々 -Another story(under)-
第16章 君欲
✜
車に乗り込み、シートベルトをかけてから手を繋ぐのはいつもの流れだった。
ハンドルに片手を掛け、じっと前を見据えるシャンクスの横顔を見つめる。
「なにかあった?」
大きな手を握ると、より強く握り返される。
「いや。...なんでもねぇよ」
笑ってエンジンをかけるシャンクス。
少し身体を捩って、外のライトに照らされた鼻梁の高い横顔に近づくと、何だよ、と笑うブルー・グレイ。
「来ないほうが良かった?」
「そんなわけねぇだろ」
間髪入れずに返され、指を絡めてつなぐ手に力がこもる。
「ちゃんと話して」
お願い、とまっすぐに見つめる視線に、邪な気持ちを見透かされるのが心地悪く、言葉が乗らない唇をつぐんだ。
「お願い」
力が籠もった小さい手の甲を指先で撫でた。
✜
溜まってるだけだ
微かなエンジン音だけの車内に、ポツリと響いた言葉。
(たまって、る?)
一瞬、理解が追いつかずに黙ると、ギュッと一度手を強く握られた。
「帰るか」
前を見据え、シフトレバーを掴んだ繋いだ手と反対の手を抑える。
妙な格好のまま、えっと、と視線を泳がせて、少し息を吐く。
「疲れが、じゃ、ない、よね...?」
「ああ、違うな」
スラックスの太腿に置かれた手。
そこから少し左に目線が行ってしまう。
おずおずと見上げた彼の視線はこちらを向いておらず、サイドドアに軽く肘をかけた手の甲を口元に当て、前を見据えている。
「えっと、」
「ジウ、」
「はい」
こちらを見ずに呼ぶ声に、声が上ずる。
「...ジウのうまい飯も食いたいし、土産物も渡してやりたいし、離れてた間にあったことを互いに話したりもしたい」
ちら、と流し目でこちらを向いたブルー・グレイが、外の空港の赤い光に照らされて、煌々と燃えている。
「けど今は、その前にジウを抱きたい」
繋いだ手の口に唇を当てる、青く燃える瞳に映ったジウは、微かな声で、はい、と小さく頷くしかなかった。