依々恋々 -Another story(under)-
第15章 Envy
♪〜
ダイニングテーブルの椅子の一つに置かれたジウの鞄から聞こえた音に、ふと顔を上げる。
キッチンに立つジウは、手元の水音で聞こえていないらしく、顔を上げない。
弄っていた自身の携帯をダイニングテーブルに置いて音源に向う。
「ジウ、鳴ってるぞ」
「え?なに?」
シンクを流していた水を止めて顔を上げたジウ。
呼び出し音を止めた彼女の携帯を片手に、キッチンに入る。
「着信の音だったぞ」
「えー、誰だろ。ありがとう」
濡れた手を拭いて携帯を受け取ると、不在着信の名前を見て、なんで?と言いながら首を傾げている。
「ごめん、ちょっと電話するね」
不思議そうにしながら携帯を耳に当て、ジウは玄関に続く廊下へ出た。
一人になったリビングダイニング。
なんとなくつけたテレビは惹かれるものがなく、プレーヤーで音楽を流しながら、タブレットで会社のコミュニケーションアプリを立ち上げる。
ダイニングチェアに掛け、業務の進捗や指示を出しながらジウを待った。
あははっ、と聞こえた笑い声。
「そんなことないって!え?...うん、いやいやっ...そうね...うん...え?ふふ」
楽しそうな声に、シャンクスの口元が弧を描きかけて横一文字に結ばれた。
ジウの口から出た、男の名前。
彼女の腐れ縁の友人でも、元恋人でも、上司でもない。
だが、呼び慣れている親しげな声に、腹の底が疼く。
話題に出ただけか、電話の相手か。
直接の連絡先を知っているのなら、それなりに親しいのだろう。
その後も幾度かジウが口にする名前が、べたり、と脳に張り付く。
(誰なんだ...)
「うん...わかった、じゃあね。おやすみ」
機嫌良さげな表情で、キッチンに戻ったジウ。
少し上がっている口角に、自制するより早く言葉が口をついた。
「ローか?」
「うん?ううん」
誰かは答えないジウに、眉毛を寄せる。
「誰だ?」
「え?同期採用の子」
「男か?」
「ううん?あ、ふふ。違うよ。『ウルージ』はその子の彼の名前」
シンクを拭き上げ、捲り上げていた袖を下ろす。
どうやら、男の話題だが、話していたのは女性だったらしい。