• テキストサイズ

依々恋々 -Another story(under)-

第12章 Drager 〜Another Side



 -顔、怖い- -すまん-
労るような優しい声。
 -治まりそう?- -そうみえるか?-
余裕無さ気な吐息まで聞こえる。

割とキツイ薬品を使ったつもりだが、彼女を前に話す余裕はあるようだ

 -...声まで聞こえだして、散々だったんだぞ-
淡々と仕事をこなしているように見えていた。
祖父のくだらないジョークにも笑っていた。
 -責任取って全部搾り出せ-
その間にも、脳裏には「彼女」の痴態を思い浮かべて耐えていたのだろうか。

 -っも、挿れてくれっ-
余裕なく零れ出た言葉に、ヘッドホンを放る。


「もういいわ」
え、と驚く若い工作員と黒服たち。

「撤収よ、てっしゅー。あ、痕跡類は消しといて。ハッキングした動画も音声も消してね。その女がタイプってんなら、AV代わりにでもしたら?」
「彼は、もういいのですか?」
「...よく考えたら、16も年上の彼なんて先々の介護が大変じゃない」
え、そこ?と呟いた天井裏の少年。
「それに、そんな態度見せられたら興醒めよ」
もっと、何なら彼女が壊れるほどに善がり狂ってくれれば見ものだったのに、と扉に向かう。

「彼がなにか調べこんでも、私やお祖父様に行き着かないようにだけして。あとはどうでもいいわ」
かいさーん、と手を振って部屋を出る彼女を、黒服たちが慌てて追いかける。

なにがしたかったんだ、と機材班がブツブツ言いながら片付ける中、屋根裏の少年がスタッと床に降りた。
彼女が放り投げたヘッドホンを拾い上げる。
そこから繋がったコードを、班員が引き抜いた。
「あ、まだ聞くつもりでした?」
否定に首を振り、ヘッドホンを手渡す。

「手の混んだ探偵ごっこにも、そろそろ飽きてくれればいいものを」
呆れたようにホテルの設備員に扮した帽子を被り直し、よっこいせ、とモニターやコードをまとめて抱える班員。

惚れっぽいお嬢様に振り回されるのにも慣れている少年は、どうせまたすぐ似たようなことをする、と運び出されていく機材を見送った。
「もっと近くに目を向けてくれればなぁ」
電気工員の道具箱に見せ掛けた盗聴器の受信機。
電源が入ったままなのを見て、ブツッと部屋との通信を切った。

「後でマイク、回収に行かなきゃな」
さっきまでみっちりと置かれていた盗撮盗聴機材の面影を一切残さない部屋をぐるりと見渡し、静かに部屋をあとにした。
/ 98ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp