依々恋々 -Another story(under)-
第18章 TRAVELER
宿から40分ほど走った頃。
「ジウ、見えるか?」
あれ、とシャンクスが指す方を見る。
よく晴れた青空を背景に、荘厳な雰囲気で構える西洋建築。
「お城?」
「いや、宮殿だな」
なにが違うの?と運転席の彼を見る。
「城は、敵襲に備えるための言わば要塞だ。
あれは中世に戦乱から家族を逃がすために、王族が建てた別荘さ」
へぇ、と近づくほどに見えてくる塀の中の美しい建物に目を奪われた。
「最後にここを居城とした公爵一家の末裔が今は管理をしていて、文化財でもある歴史的建造物だが、映画やドラマの撮影に提供もしていて、最近はコスプレイヤーの撮影地としても人気らしいぞ」
正門近くに車を駐めたシャンクスが外から開けられたドアに、ありがとう、と降りようとすると、ス、と差し出される手。
「お手を」
「ふふ。お姫様になった気分」
手を借りて車から降りると、腕を絡めて手を握られる。
「公爵様、今日はどこへ連れて行ってくださるの?」
巫山戯るジウに、随分地位を上げられたなぁ、と破顔したシャンクス。
「公爵ってえらいの?」
ヨーロッパの貴族階級序列で言や国王女王に次ぐ地位だ、と聞かされ、相当に高貴な地位であると知る。
「お姫さんの方が位は高いさ。
王族のひとりだからな。
場合によっちゃあ、次期女王様だ」
そっか、とジウはいたずらっぽく笑ってシャンクスを見上げた。
「フィガーランド公爵、今日はこのような場所へと連れ出して、どのような要件ですの?」
ジウなりの精一杯の貴族ごっこに、くくっ、と笑う。
「今日は、姫君と花園の散策でもしようかと」
ノッてきたシャンクスにジウはおかしそうに笑った。
✜
門を抜けた宮殿までの間には色とりどりの花。
その中央の噴水からは、潤沢の水が止めどなく流れている。
瑞瑞しく咲き誇る草木に、天気が良くてよかった、とシャンクスは庭を見渡した。
素敵、と美しい庭に見惚れるジウの手を引き、散策を始める。
「そろそろ腹減ったか?」
そう言えば朝食がまだだった、とジウは頷く。
向かった先には、Cafe & Parlerという看板のある受付。
いらっしゃいませ、と通された席は、庭を見渡す絶景のテラス席だった。