依々恋々 -Another story(under)-
第18章 TRAVELER
署で聴取を受けるまで無く、念の為、と警察に連絡先を伝え、仕切り直しだな、とジウの手を腕に絡ませて歩く。
「あっ!ここだよ。珈琲のお饅頭屋さん」
名物温泉まんじゅう、と幟の立つ店前で、濛々と湯気を立てて蒸されている蒸籠。
「いらっしゃい!」
どれも美味しそう、と唇を撫でるジウに、試食用に切り分けられた饅頭を差し出す店員。
「一番人気はこしあん入りの黒糖ね。
蓬はつぶあんでばあちゃんの手仕込みっ!
珈琲はオリジナルで売ってるのはうちだけ!
中は生クリームだよ。
若い子にはカスタード入りの洋風が人気かなっ」
威勢の良い呼び込みに、通りの他の客も立ち止まる。
試食した黒糖味がおいしい、と笑うジウ。
「いらっしゃーい!
美女も喜ぶ温泉まんじゅう!いかがですかぁ?」
ジウを呼び込みに巻き込んだ若い女店員に苦笑し、自分のことだとは露にも気づいていないジウが、どうしようかなぁ、と悩む。
「サナとローには黒糖と珈琲にしようかな
事務所に詰め合わせ買っていこう」
「土産用は明日にしたらどうだ?」
そっか、というジウがすいません、と声をかける。
「黒糖と珈琲。一つずつください」
「はーい!ありがとう」
ちょっと待ってね!とパックに蒸したてを詰める。
「どうもありがとう!」
ありがとうございました、と店先を離れ、温泉街の散策を再開する。
饅頭の入った手提げ袋を片手に、ジウの左手と繋ぐ。
地産の生鮮物や加工品を見た後、そろそろ宿に向かうか、と時間を確認する。
予約した宿につくと、駐車場をぐるりと囲う竹林を見上げるジウ。
「筍、取れたりするのかな?」
「よく見る根の太い孟宗竹とは種類は違う。
破竹って竹だが、若いのは食えるぞ」
時期になれば収穫してるんじゃないか?と鞄を肩に掛ける。
「物知りね」
「昔、春になると筍掘り大会してたからな」
「『大会?』」
「可食部分が一番大きい筍を取った奴が食べ方決めれるんだ」
炊き込み飯とか焼き筍とか、と言うシャンクスに、春を満喫してる、とジウは楽しそうに笑った。