A THOUGHT TO TELL(テニプリ 忍足侑士)
第1章 1
そう、コートが見えるから、私はいつもここに来るんだ。
練習中はファンの子が多くて、フェンスに近寄る事も出来ないけど。
今のこの時間は、私だけの特等席になる。
本当は、プレイ中の忍足を見ていたいんだけど。
それは到底出来そうもないから。
「テニスコートなんて見とって、何が楽しいん?」
「別に楽しい訳じゃないけど、練習中は人がいすぎて見れないでしょ?」
「せやな」
「だから、誰もいないコートを見て想像するの」
「…テニスが好きなん?」
「ん、まぁ。そんなとこかな」
忍足の言葉に、 叶弥 は苦笑して答える。
今ってきっと、告白のチャンスなんだろうな。
そんな事を考えてみたりして。
けど、私にはそれが出来ない。
さっきの女の子みたいな勇気が、私にもあったらよかったのに。
「・・・き、 渋希 !」
「え?」
「どないしたん?急に黙り込んで」
「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事」
「その調子やと、俺の言うた事聞いてへんかったやろ?」
「え、何か言ったの?ごめん、なに?」
「せやからな、コートを見とるんは、テニスが好きっちゅうより好きな奴がテニス部におるからなんとちゃうんのん?って」
叶弥 は、驚いて目を丸くした。
こんな顔したら、そうですって言ってるようなものなんだけど。
「どうして、そう思うの?」
「いや、なんとなくやけど。テニス好きなら、女テニに行けばええんやし」
「・・・なんか、忍足君って思ってたより鋭いかも」
「なんやそれ。 渋希 は俺の事どんな奴やと思とるんや」
「いや、もっと鈍いのかと・・・」
「失礼やなぁ。誰かて気付くで、あの言い方やと。で、どうなん?」
忍足は、一際真剣そうな顔をして私を見る。
忍足に見られていると思うだけで、心臓が言う事を聞かないくらい煩くなる。
もう少し近かったら、聞こえてしまうかもしれない。
「 渋希 、嫌やなかったら答えてくれへん?テニス部に、好きな奴がおるん?」
「…うん、いるよ。好きな人。でも、望みはないかなぁ」
「なんでや?」
「その人、凄くモテるんだ。だから、私なんかは相手にされないと思う」
「そんなん、言ってみな分らんのとちゃうん?」
「・・・じゃあもし、…もし私の好きな人が忍足君だって言ったら、どうする?」