第1章 Hands
side.研磨
リビングに名前の姿がない。
「母さん。名前は?」
「えっ?名前ちゃんなら研磨を呼びに行ったけど?」
俺を呼びに来てから戻ってない。
それなら部屋にいるはずだ。
「えっ?ちょっと、研磨?」
「名前。呼びに行ってくる」
2階へ上がり、名前の部屋の前に立った。
「名前?」
名前を呼んでも返事がない。
ドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。
廊下の電気が差し込み、薄暗く室内を照らす。
きっとベッドの中だ。
「名前」
「………」
「変なの見せてごめん」
「………」
「でも俺も男だから、そういう事するよ」
「………」
「………」
暫く沈黙が続く。
同じ幼馴染でも、クロならもっと上手く名前の機嫌を取れるんだと思う。
俺は事情を話すことしか出来ないのに…
でも、このまま口を利かないのは嫌だった。