第36章 好きで、好きで
(ジウ...帰ったか?)
会計して喫茶店の辺りを見てみるが姿はない。
人の流れを横目に見ながら、携帯で自宅のセキュリティを確認すると、在宅モードになっている。
くるり、と行き先を変え、駆け足でマンションの方へ向かう。
「ジウっ」
玄関ドアを開けると、廊下の脇で膝を抱えて座るジウが、おかえり、と言い終わる前に抱き締める。
「お話してきた?」
「ああ」
「どうする?」
「『どうする?』ってなんだ」
「別れる?」
ジウの言葉にカッと目を見開くと、細い腕を掴む。
「何言ってんだ!」
別れるわけ無いだろっ、と手に力が篭る。
「よかった」
「っジウ、」
ふわりと笑った顔に力を弱める。
「まだ、一緒にいられる?」
不安そうに笑うジウを掻き抱く。
「『まだ』じゃねぇ。『ずっと』だ」
「ふふ、うん」
腕の中で頷くジウを見下ろす。
胸元に顔を埋め、服を摘む指先。
微かに震えている手を握る。
「不安にさせて、悪かった。けど、心配するな。
俺は、ジウが好きだ。ずっと一緒だ」
震えている指先と少し冷たい掌。
ずっと膝に擦り当てていたのだろう。
赤くなった額にキスをする。
「ちょっと、怖かった」
ポツリ、と溢された本音に、大丈夫だ、と全身で抱き込み、頬にキスをする。
「シャン、が...帰ってこなかったら、とか」
「帰って来るさ」
柔らかい髪を撫でる。
「お付き合い、やめたいって言われたら、どうしようとか」
「言うわけ無いだろ」
ほろり、と頬に転がった涙を舌で拭う。
「可愛い子、だったから」
「ジウの方がかわいいし美人で、いい女だ」
ちう、と微かに開いた唇を重ねる。
「若い子の方がいいかなって」
「そんな賞味期限付きの武器を掲げる小娘なんか、鼻で笑ってやれ」
え、と瞳を瞬かせるジウの頬を掴み、鼻先を甘噛する。
「ジウほど可愛い女を俺は知らない。
知る気もない。
ジウの全部が愛おしい。
狂おしいほどに。
ジウの全部、欲しくて堪らない。
今までもこれからも」
眦にキスをする。
「ずっと、ジウだけを愛してる」
うう、と頬を染めて俯くジウ。
「愛してる」
再び繰り返すと、うん、と僅かに頷き、身体を擦り寄せた。