第36章 好きで、好きで
✜
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「3人です。すいません、奥のそこの席、いいですか?」
どうぞ、と店員は笑顔でジウの指した席を案内した。
「ご注文がお決まりになりましたらベルでお呼びください」
失礼します、と水の入ったグラス3つを置いて去った店員。
一瞬の静寂の後、ジウが席を立った。
「ジウ、」
「ちゃんと話してあげて。誠実に、ね」
腕を掴むシャンクスの左手をそっと下ろさせると、待ってるから、とバッグを持つ。
「あ、あのっ」
声を上げる彼女は、シャンクスとジウからの目線を受け、軽く下唇を噛むと、ジウを見た。
「本気で、お兄さんのことオトしにいきますよ」
再び目を見開くシャンクスをチラリ、と見て、微笑む。
「どうぞ。存分に頑張って」
バッグを肩にかけて去るジウ。
「おい、ジウ!」
「ちゃんと聞いてあげて」
「だが、」
ゆっくりと歩み戻ると、背の高い彼の頬に手を添えた。
「待ってるから」
す、と無精髭の残る頬を撫で、薄い唇を親指の腹で撫でる。
「信じてる」
離れた手を掴もうとしたシャンクスの左手は空を切り、ジウは店を出て行った。
✜
カラン、と店先のベルが鳴る。
磨りガラスのはめられたそれを見て、シャンクスはため息をついた。
(試してるつもりなのか?)
そんな気は微塵もないが、もし、自分が戻らなかったらジウはどうするんだろうか、と渋々席に座る。
近くを通った店員を呼び止めたシャンクス。
「パンケーキとミルクセーキ、コーヒーをホットで」
「かしこまりました」
オーダを受けた店員は、テーブルの紙伝票に書き込みをした。
「...単刀直入に言う。彼女と別れる気は微塵も無い」
シガーケースの煙草を一本口に咥えたが、目の前の彼女の制服が視界に入り、戻した。
「俺は、お前さんとどうこうなる気はないし、手紙も開封していない」
びく、と彼女の肩が震え、ガシガシと頭を掻く。
「友人、とかもないですか?」
「自分にそういう気持ちを持っているとわかっている相手と、0から友情を築けるとでも思ってるのか?」
「そ、れは」
かち、ぱちん。かち、ぱちん。とシャンクスの手中でシガーケースが開け閉めされる音が繰り返される。
静寂の時に店員の明るい声が入る。