第36章 好きで、好きで
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「「えっ、渡したのっ⁉」」
「渡しちゃったのよ、この子」
ファストフード店の一席で、4人の女子高生が屯っていた。
「勇気あるぅ」
「え、なんだっけ?バイト先のお客さんだっけ?」
うん、と頷く女子高生。
「カフェにね、たまに来るの」
かっこいい人、と頬を染めて笑う。
「ただ、直接は受け取ってもらえてないんだよね。秘書的な人にダメって言われて、粘ったけど手下?部下?の人に取られてた」
アレでいいの?と現場にいた友人。
「印象には残ったっしょ!」
まあ、そりゃあ、と曖昧な返事。
「でもさぁ、え?会社員?社会人でしょ?正直、ぴっちぴちの女子高生に言い寄られて、悪い気はしないでしょ」
「うーん。でもいつもいる秘書さんたち、美人ばっかりだからなぁ。見慣れてるのかも...」
「百戦錬磨な感じ?」
「え?そんなのわかんないっ!」
「モテそうな感じの雰囲気ではあった」
「えー、どんな人?」
えーとねぇ、と手紙の筆者が話し出すと、ねえ、と友人が肩を叩く。
「あの人でしょ、手紙渡したの」
え?と立ち上がって店のウィンドウに張り付く。
「そうっ彼!」
舗道に停められた赤の車の傍らで、携帯を見ている姿。
「なーんか、ヤバそうな雰囲気」
「え?そう?」
「でも、かっこいいよ」
「でしょっ!?」
どうしょう、とモジモジしだす彼女に、声かけに行く?と友人たちが囃し立てる。
「困らないかな?」
今更だと思うけどなぁ、とドリンクを吸い上げた友人。
「え、でも、ちょっと」
ガラス越しに見続けていた1人が手招きする。
「女の人、来たよ」
「ええっ?!」
ガコン、と椅子を鳴らして立ち上がる。
「秘書の人じゃない?」
興味なさげに言う友人に、いや、アレは...と友人二人が彼女を見上げる。
どうしたの?と目線を向けると、OLといった雰囲気の彼女の腰を抱き、話し込んでいる例の彼。
手元の携帯を指差す彼女との距離は近い。
道を指差した彼女に頷くと、その髪を撫でて、車へとエスコートする。
助手席の扉を閉める直前に中を覗き込む。
笑いながら、胸ポケットに掛けられていたサングラスをかけると、運転席へと乗り込んだ。
走り去った車が、カフェのウィンドウの目の前を通る。
左ハンドルのその車の中で、運転席の彼の方を向いた黒髪の後ろ姿と笑う横顔。
呆然と見つめる友人に、3人は何も言えず俯いた。
