第28章 Secret Honey
ふらりと出た街で見知った赤髪を見つけ、少し行けば奴の社屋がある辺りまで来ていたことに気づく。
気づかれればまた彼のペースで飲み屋に連行される気がして、逃げようか、と足を止めた。
「ん?」
どうやら一人ではないらしい。
自分がいる方向とは逆の方を向き、いつもの気が抜けるような笑顔を見せている。
歩く方角を変えた彼が、右手になにか掴んでいるのがわかった。
「女?」
珍しい、と目を見開く。
異性に関してはあまり一人に執着しない性格だと思っていた。しかし、目の前の奴は隣に立つ女性に何やらちょっかいを出したり、髪を撫でたり、繋いだ手を引き寄せて笑顔をみせている。
珍しいものを見た、とつい凝視していると、奴と目が合う。
いつものおもちゃを見つけた子供のような顔をするかと思えば、軽いアイコンタクトだけよこし、目線を彼女に向けた。
「珍しいこともあるものだ」
偶然鉢合わせた時に女性を連れていても、鷹の眼〜!と駆け寄ってくる奴だったのに、と隣の彼女を見る。
黒い髪で、落ち着いた雰囲気。
空いた手の指先で唇に触れながら、何か話している。
それを聞いてなにか思い悩んだかと思うと、ぱっと笑顔で彼女に話しかける。
頷き合い、奴がよく出向く店通りとは逆の方角に歩いていく。
雰囲気から見て、店の女性には見えない。
自分と同級生である彼よりも、少し若そうだった。
「まさか、恋人か?」
そういった自分に、自分で『そんなはずあるか?』と問う。
ただ、もうアレからどれほどだったろうか?
5年はとうに経っており、さすがの彼もそろそろ清算できているのではないか?と考える。
異性を信用できなくなっても仕方ない、と思える出来事だったが、なんだかんだ奴の会社には女性社員はいるし、彼の周りに異性が全くいないわけではない。
「愛する者がいるのは、いいことだ」
うん、と頷き、少し先の行きつけの酒屋へ向かう。
少し、彼が選んだ人がどんな女性が気になったが、めぐり合わせがあれば会えるだろう、と二人が向かった方角とは逆にあるバーへと向かった。