第27章 ふたり
(オマケ)
下から聞こえた、カタン、という小さな音。
二階の私室から出る。
「おかえりなさい」
「ん?ああ、まだ起きていたのか」
店を閉めてからもう数時間。
横を通る彼から、若い女の子に人気の香水の香りが漂う。
「何か、飲む?」
「うん。酒より熱い茶をもらいたい」
台所で湯を沸かす。
部屋着に着替えて顔を出したレイリーは、眼鏡を外していた。
どうぞ、と彼の前に湯呑をおいて向かいに座る。
「今日、ジウさんに偶然会った」
ズズッ、とお茶を啜るレイリーは、随分と機嫌が良さそうだ。
「あら、じゃあ赤髪君とも?」
「いや、仕事帰りで一人だったよ」
フッ、と笑うレイリー。
「シャンクスも、立派になった。ああ、バギーは元気にやってるだろうか」
「前に来た時、あなた、いなかったものね」
ちら、と向けられる視線に、残念だった、と目を伏せる。
「あの二人を見ていると、昔が思い出される」
長くハウスに顔を出してないな、とレイリーは茶器を傾けた。
「何かが似ているわけでもないのに、ロジャーやルージュの影と重なってね」
目元を押さえるレイリー。
そっと机の手に触れると、指を絡めて握ってくれる。
「シャンクスとジウさんには、幸せになって欲しいものだ」
あいつは少し運のない子だから、と切ない顔。
「女運がないのは、ロジャーさんよりもあなたに似たのかしらね」
「言ってくれるな」
苦笑する顔に、ポン、と握った手を撫でる。
「あの二人は、きっと何があっても乗り越える」
女の勘、と微笑むシャクヤク。
「随分頼もしい根拠だ」
おかしそうに笑ったレイリー。
「ジウさんが、赤髪君を待ってくれるなら。あの子、大人しそうに見えて破天荒なことしそうだから」
「それは、女の勘か?それとも君の経験則か?」
立場も何もかもを投げ棄てて、自分と共にいたいとついてきた彼女に問う。
「半々、かしら?」
「まったく、目が離せない『こども』達が多くて仕方ないな」
無闇に死ねんな、と笑ったレイリー。
長生きして、と微笑んだシャクヤクの顔は、もう何年と変わらない恋をした女の子の顔だった。