第27章 ふたり
「ハウスの近くの海でも採れるから、よく潜って採ってた」
おいしい、と言うシャンクス。
「案外どこでも採れるから、どのあたりの海なのかはわらからないな」
「緋扇貝...なんの貝殻だったのか気になってたから、それがわかっただけでも嬉しい」
ありがとう、と見上げるジウの髪を撫でる。
画像の貝殻を見つめ、少し悲しそうに笑う。
「どうした?」
「うん。その男の子がくれたヒオウギガイ、失くしちゃったの」
「失くした?」
「うん。だからもしかしたら、その男の子も、貝殻をもらったことも、実は夢だったんじゃないかと思ってて...。本当に男の子はいたのか、本当に貝殻をもらったのか分からないの」
けど、とジウは微笑む。
「初恋だった。今でも、目を閉じるとその海の景色、砂浜の感触。差し出してくれた『ヒオウギガイ』の色。麦わら帽子の下の笑った口元...はっきりと思い出せるもの」
なのに、顔だけがわからない、と膝を抱えて顎を乗せる。
「ハウスの近くの海に行ってみるか」
あそこ割と水きれいだし、と視線を寄越すシャンクス。
「ジウの初恋の記憶に近いかはわからんが、緋扇貝、探してやる」
目線を合わせずに缶を煽る横顔。
「どうして?」
「なんとなくだ」
ローテーブルに缶を置く。
貝の名前がわかった時の嬉しそうな顔に、ジウがもらったという貝に近い物があれば喜ぶんじゃないかと思った。
トン、と肩にかかる重み。
「ありがとう」
スリ、と額を肩に寄せるジウの髪にキスをして、肩を抱く。
「『海の子』よりキレイなの探してやる」
「ふふ、負けず嫌いね」
✜
寝顔にかかる漆黒の絹糸の髪を払う。
ふと、見慣れた海の景色が浮かぶ。
いつも被っていた、船長からのお下がりの麦わら帽子。
鍔を深く下げ、ぶっきらぼうに差し出した貝殻を受け取る小さな手の女の子。
ジウの髪を撫でていた手が止まる。
「んぅ」
ゆっくりと呼吸するジウの寝顔を見つめる。
ふっ、と息を吐き、目を伏せる。
「まさか、そんなはずない」
初恋の彼女と同じくらいの長さの髪を、さらり、と撫でて口づける。
閉じた瞼の裏。
夕日の逆光の中。
貸した麦わら帽子の下で笑う、幼いながらも整っていた顔に重なった。