第27章 ふたり
「確か、12歳くらいだったと思う。ハウスに見学に来た女の子だった」
町の職員と来た女の子、と記憶を手繰る。
「ジウみたいな黒髪で...可愛い子だった」
少しずつ鮮明になっていく記憶。
「少し年下で、みんな新しい子や見学の子が来ると珍しくて群がるから、その子はすごく怖がってて...ずっと、怯えて俯いてたな」
悪い事したな、と懐かしむ。
「...ああ、そうだ。バギーと声をかけたんだ。『一緒に遊ぶ?』って。そしたら、パッと陰に隠れて首を振るんだ。
バギーは『じゃあいい』ってどっか行ったけど、俺はなんかその子が気になって、ずっと声をかけてた」
「怖がってるのに?」
そう、と申し訳無さそうに笑う。
「『名前は?』とか『歳は?』とか聞きまくって...何回かレイさんや船長に、『怖がってるから』と諌められてもやめなくて...今思うと、一目惚れしてたんだろうな」
「積極的なのは昔から変わらないのね」
おかしそうに笑うジウ。
「最後まで全然答えてくれなくて、その子は帰っていったな...それから、その子がハウスに来ることはなくてそれっきりだ」
すっかり忘れてた、と懐かしんで笑う。
「たった数時間で、まともに会話もしてないが、初恋だったと思う」
「シャンの初恋は、一目惚れだったのね」
そうみたいだ、と笑う顔に微笑む。
「ジウの初恋の話、聞きたいな」
気になる、とローテーブルに片肘をついて見やるシャンクス。
「私?私は...海の子だった」
「『海の子』?」
何だそりゃ、と怪訝そうな顔に笑う。
「それも、夢だったかもしれないの」
「夢の中の男に恋したのか?」「そう」
どういうことだ?と首を傾げるシャンクスにクスリ、と笑い、ジウは話しだした。
「多分年上の、海が似合う男の子。今でもその姿は覚えてるのに、顔だけが思い出せないのよ」
でも確かに初恋だった、と頷く。
「砂浜で...麦藁帽子を被った男の子」
ちょっと大きくて、顔が隠れちゃうくらいの、と言う。
「『あげるよ』って、貝殻をくれたの。ホタテみたいな形の鮮やかな赤い貝殻」
「...ヒオウギガイか?」
え?とシャンクスを見上げると、携帯を操作して画面を見せる。
「そう!もっと赤っぽくて...」
黄や紫の貝殻の中に、鮮やかな赤い貝殻を見つけ、これ!と指す。