• テキストサイズ

依々恋々 -Another story-

第26章 LOVE LETTER



  数日後。

「あ」
他課に書類を届け、執務室に帰る途中。
職員証を首から下げ、巡回も兼ねてセンター内を歩いていると、カフェテリアの近くで手紙の彼と会った。
ペコリ、と頭を下げた彼。

「あの、」
声をかけると、はい、とどこか嬉しそうに返事をする彼に、少し戸惑いながら話しかけた。

「今日は、何時までご利用されますか?」
「っ閉館までいますっ!自習室かパソコン席にいるかな」
「業務が終わり次第、お声掛けさせていただいてよろしいですか?」
できるだけ事務的に、と話しかける。

「もちろんです!」
「ありがとうございます。それでは」
「お仕事、頑張ってください」
失礼します、と頭を下げる。
利用者は入れない裏側のスペースに入ると、通路の壁に背中をつけて深く息を吐く。コン、と後頭部が壁に当たる。
少し苦しく感じる首を撫でる。
フッ、と脳裏によぎった紅緋の髪の影を振り払うように首を振る。
遠ざけた影と変わって現れる深紅の笑顔に、少し、息苦しさが解けた。
「よしっ。仕事、仕事」
大丈夫、大丈夫。と2回、言い聞かせて執務室に戻った。

 ✜

「お疲れ様でした」
いつも使う職員通路ではなく、自習室はこちら、と天井から吊るされた館内通路を歩く。
50近くある席はある程度埋まっていて、入ってすぐの席に彼を見つけた。
こちらに気づいて立ち上がった彼の向かい。
4人がけの机の目隠しボードの奥からこちらを見たブルー・グレイの瞳に瞬く。

(なにも、言ってなかったのに)
昨日の夜に電話で話した時も、今朝やり取りしたメッセージの中でも、午後に来るなんて一言も書かれてなかった。
ただ、「仕事が終わったら会いに行く」というから、少し遅い時間に自宅に来るものだと思っていた。

手元に文庫を開いたままこちらを見やる姿を、歩み寄ってくる彼越しに見る。

「こんにちは」
眼の前で立ちどまると、気恥ずかしそうにする彼。
「少し、お話させていただいてよろしいですか?」
文庫を閉じて立ち上がったシャンクスを横目に見て、はい、と頷いた彼を館外に連れ出した。
ついてきている様子はなかったが、近くに来る気がして、センターの正面入口を出てすぐの脇道。駐車場に抜ける通路の脇で立ち止まった。

「お返します」
差し出した手紙封筒。
「そう、ですか」
開封の痕跡がないそれを受け取った彼は、そうですよね、と笑った。
/ 142ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp