第25章 缶コーヒー
「ありがとうございました!」
さっさと閉まった扉に笑顔で頭を下げ、トラックに戻る。
次の配送物を確認して車を走らせた。
目的地に着き、配送先の号室を確認する。
「最上階か、」
エレベータを乗り継がないと、と幾度か荷物を運んだことのある部屋を目指す、
(確か、この部屋は気のいい兄ちゃんだったな)
30代前半と思われる赤い髪の男、と思い出す。
住宅階層の入り口で一度エレベータを降り、インターホンを鳴らす。
-はい-
返ってきたのは女性の声。
「かもめ配送です!お荷物を届けに参りました」
どうぞ、という声に、同居者がいたのか、と解錠されたエレベータホールで待つ。
最上層について奥の号室のインターホンを再び鳴らす。
開いた扉の先には、背の高い赤髪の男。
左手で受取のサインをする。
「シャン、」
奥からの声に振り返ると、水色のストライプのシャツワンピースを着た黒髪の女性からなにか受け取る。
浅灼けた手で差し出されたのは、カフェオレの缶。
「ありがとうございます!」
サインを貰った伝票を剝いだ荷物を渡し、缶を受け取る。
ご苦労さん、と声をかけてもらい、ありがとうございました、と制服の帽子を脱いで頭を下げる。
「またよろしくお願いします」
閉まりかけた扉。
「お気をつけて」
かすかな隙間から見えた笑顔。
「金持ちって基本的に美人連れてるよな」
商業地の高層ビルの上層階に住む男。
彼女は恋人だろうか?それか「親しい友人」という名のセフレ?と下衆な考えが過る。
再びエレベータに乗り込み、トラックに戻る。
次の荷物の届け先を確認し、エンジンをかけた。
ドリンクホルダーに入れた缶コーヒー。
ハンドルから手を離し、プルタブを起こす。
よく冷えた、少し甘いコーヒー。
「ありがたや、ありがたや」
うまい、と飲み干してトラックを走らせた。
✜
「んっふぅ」
玄関ドアに背を押し付けられて、無理やりに近いキスを受ける。
「なにっ?急に、」
「知るか」
「はいっ?んっんむぅ、や、ちょっ、とふぁ」
ジウが配達員の男に笑いかけたのが癪に障ったシャンクスは、腹立つ、とジウが立てなくなるまでキスをし続けた。