第24章 かわいいひと
洗い場で体を洗っていると、貸せ、とボディタオルを取り上げられ、向こう、と壁を指差す。
程よい力で背中を擦られ、気持ちいい、と口元が緩む。
手渡されたタオルで自分で洗える範囲を洗うと、俺も、と浴槽から上がったシャンクスに風呂椅子を譲る。
「そういや、部下にシャンプー変えたか聞かれたな」
よく気付くよな、とタオルで体を擦る。
「シャンが使ってたやつは、もう買ってないもんね」
T.O.Gと地下でつながる薬局にある、至って普通のシャンプー。ジウが好んで使うはちみつの香りのものは、ジウの部屋から最寄りの薬局にしかない。
「女ってのはこういう匂いに敏感だよな」
俺はさっぱりわからん、とシャンプーのボトルを手に取る。
「あなただって、ハウスに行ったときに取ったホテルで『匂いが違う』って嫌がったじゃない」
「...そういや、そうだな」
首を傾げてボトルを見る。
「ああ、そうか」
一人、納得してボトルを戻す。
「ジウの匂いだからだな」
濡れた髪をすくい、すん、と鼻を寄せる。
「いい香り」「お気に入りね」
すんすんと犬のように鼻を鳴らすシャンクス。
泡を流して浴槽に入ると、下から見上げる。
「『水も滴るいい男』とは言うけれど、シャンはあまりそういうタイプじゃないわね」
「おい、自分の男捕まえてそりゃ酷いだろ」
いい男だろ?と笑って目線をよこす。
「『水も滴る』って言うと...ほら。モデルの...あっキャベンディッシュさんみたいな」
「誰だ、それ?」
少し手荒に髪を洗うシャンクス。
「シャンはどちらかというと、精悍なタイプよ」
浴室の鏡に映る顔をまじまじと見る。
「『キレイな顔』というよりは『整った顔』」
「よくわからん」
うーん、と顔を顰めるシャンクス。
「私は、精悍な人のほうがタイプかな?」
浴槽の縁に腕を乗せ、にっこりと見上げるジウを一瞥したシャンクスは、シャンプーの泡を流して、顔を洗う。
「ジウは、半々だな」
なにが?と見上げる。
「『可愛い』と『綺麗』が」
ブルー・グレイの流し目に、ドキリ、と顔をあげる。
「ベッドだと、少しだけ可愛いが増す」
ニヤ、と笑う口元に、体温が上がる。
バカ、と水面に顔の半分を埋もれさせると、いたずらっぽく笑う横顔にお湯をかけた。