第19章 Dress Up Ladie
何をされた、と怖い顔で肩を掴むシャンクスに、何も、と首を振る。
「人に酔っただけ、だから」
じっと見下ろす目線に耐えきれず、大丈夫だから、と手を掴む。
「ジウ」
「ちょっと、疲れちゃった。もう、帰りたい」
わかった、と背中を支えてくれる手の温かさに、ふう、と息を吐いた。
「心配してた」
ん?と隣を見上げる。
前を向いたまま、訥々と話す。
「懐かしい顔に会って、俺よりも好きだと思う奴がいて。ジウが別れたいって、そいつと付き合いたいって言われたら...」
立ち止まり、正面から抱き込まれる。
「怖かった。帰ってこないんじゃないかって...」
広い背中に回した腕で抱き寄せ、硬い胸に額を当てると、いつもの海とコーヒーの香りがする。
「さっきの奴、」
身動ぐと、腕の力を緩め、輪にした腕に囲まれる。
「告白でもしてきたか」
「どうして...」
わかるさ、と少し笑う。
「同じ人を好きになった者同士、な」
少し翳ったブルー・グレイ。
半歩歩み寄ると、いつもの海の香りをゆっくりと吸い込んだ。
✜
「あれ?シュライヤ、ジウ、追いかけたんじゃなかったのか?」
振られた?と笑う友人。うるさい、と手近にあったビール瓶を煽る。
「男といたよ」
ぐいっと袖で口元を拭う。
ええっ!と驚く友人。
「男って...え、まさか」
「いや、違う。でも見たことがある」
なんて名前だったか、と瓶を振る。
「キッドと違う、でも赤い髪のやつだった。確か、レッドなんとかって会社の取締役だ」
赤い髪、レッドなんとか...と呟いた友人が、酒を吹き出した。
「きったねぇな」
「そ、それって!『赤髪』だろっ」
赤髪?と目線をやる。
「『RedForce』だよっ!」
チラ、と周りを伺った友人が声を潜める。
「大きな声で言えねぇけど、表向きは気のいい社長で会社も割とクリーン。だけど、裏社会と結構通じてるって。あの『黒ひげ』と一悶着起こしたことあるらしい」
黒ひげ。怪しい噂が耐えない貿易会社の社長だ。
「うわー、大人しそうな顔して、結構エグいのと付き合ってんだなぁ」
女って怖ぇ、と身を震わせている友人。
「ジウが誰を好きになろうと、ジウの自由だろ」
「え?あ、まぁそうだけど」
チッ、と舌打ちをして機嫌の悪いシュライヤに、怒るなよ、と首を傾げた。
