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依々恋々 -Another story-

第19章 Dress Up Ladie


パウダールームには、数人、客がいた。
一番奥の角のスペースで、化粧ポーチを取り出す。
ねえ!という声で、明るいオレンジのドレスを着た女性が顔を出す。

「シュライヤくん、来たらしいんだけどっ!」
興奮気味の声に、ギクリ、と手が止まる。
「実家の仕事、継いでるらしいよ」
「何してんだっけ?」
「造船業!御曹司だよ〜」
まじ?と色めく彼女たち。

「あ、でも彼、お目当ているんじゃない?」

震える手で、グロスを取り出す。

「ほら、キッドと争奪戦したっていう」
「いたねぇ、名前、何だっけ?」
さあ?と悩みだす同級生。
手にしていたグロスをポーチに押し込み、こそこそとパウダールームを出た。

(帰ろ)
会場のホテルを出て、タクシー乗り場の隅のベンチに腰掛ける。
(あ、先生に何も言わずに出てきちゃった)
これだけ人数がいるんじゃ、自分ひとりいなくても気にならないか、と携帯を取り出す。

-近くにいる?-
すぐに既読がついたメッセージに、安心した。

「ジウっ」
カツ、と革靴の音に顔を上げた。
「いた、」
「シュ、ライヤ君」
探した、と立つ姿に、立ち上がる。
「帰るのか?送ろうか?」
タクシー呼ぶよ、と携帯を取り出す彼に、首を振る。
「い、いいよ。家、近いから」
「なら尚更。待って」
携帯を操作する彼の後ろに、赤髪の長躯を見て、あ、と目線を向ける。

その目線に気づいたシュライヤも振り返る。
手元に目線を落としていた横顔が、ジウの手元で鳴った携帯の着信音に振り向く。


「ジウ、中で待ってろって言ったろ」
柱の陰のシュライヤに気づいていないシャンクスが、ジウに近寄ってジャケットをその肩にかけた。
「ん?」
そこでシュライヤに気付き、お前、と瞬く。
シュライヤの目線がジウに向かったことに気づいたシャンクスは、明らかな警戒をむき出しにして、背中にジウを庇った。

無遠慮に睨みつけるシャンクスの背に隠れるジウ。
(そういうことかよ)
シュライヤは、ふっ、と目を伏せて背を向けた。
「じゃあな、ジウ」
あの、となにか言いかけたジウを抱き寄せて鋭く向けられる目線をドアのガラス越しに確認し、軽く手を挙げる。

「うまく誤魔化しといてやるよ」

閉じたドアに、肩を掴んで彼女を覗き込む姿を見た。
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