第19章 Dress Up Ladie
雰囲気の変わった会場に、入り口を見やる。
確か、と珍しい伽羅色の髪に注視する。
「シュライヤくん!」
(あ、そう。シュライヤ君だ)
当時から人気があったな、と女の子たちに囲まれている様子を見ていると、パチリ、と目が合った。
女の子たちの輪からス、と抜けてこちらに来る。
「よぉ」
「こん、ばん、は」
まさか、声を掛けられると思わずに声が上擦る。
「相変わらず、男嫌いか?」
変わんねぇのな、と笑う顔に、はあ、と曖昧に返す。
んん?と片眉を釣り上げる彼。
「もしかして、覚えてない?」
まさか、と手を振る。
「覚えてますよっシュライヤ、君」
名前はさっき思い出したけど、と言う言葉は飲み込む。
「俺も覚えてるよ、ジウ」
「それは、どうも」
覚えていられるほど話した記憶はない。
彼の奥からの目線に、それじゃ、と会釈する。
「待って、まだ話そう」
掴まれた手に、う、と顔が強ばる。
っと、と手を離したシュライヤは、悪い、とその手で首裏を掻く。
「えっと、その...元気だった?」
おかげさまで、と頷くと、そっか、と目線を反らして落ち着きなくつま先を揺らす。
「今、何してるんだ?」
「市の、社教センターの、職員を」
「へぇ、公務員?すげぇな」
何がすごいのか、と彼が被りなおす帽子を見上げる。
「シュライヤ君は?」
「ん、家の仕事を手伝ってたんだが...親父が倒れて、たたんじまってからは派遣とか、色々」
「あ、造船してあったんだっけ?」
「よく覚えてたな」
何度か、小さな女の子と港で遊ぶ彼を見かけていた。
「アデル、ちゃんだっけ?妹さん。元気?」
「っああ。この間高校生になった」
「そっか。ちょっと歳、離れてたもんね」
懐かしいね、と笑う。
「ジウっ!」
うん?と背の高い彼を見上げる。
「えっと、今、付き合ってる奴とか、いるっ?」
「あ、」
目線が定まらず、瞬きが増える。
「ご、めん、なさい」
「っこっちこそ、急に、変なこと言ってごめん」
気にしないでくれ、と手を振る。
「それ、じゃ」
恩師を囲む同級生の輪の方へ向かう背中。
楽しかったはずの賑やかな会場が、とてつもなく息苦しく感じて、手にしていたグラスをテーブルに置く。
彼の視界から逃れるように、会場の壁を伝ってエントランスに出ると、化粧室に駆け込んだ。