第19章 Dress Up Ladie
チカ、と光った画面に瞬時に携帯を手に取る。
「チッ」
会社のコミュニケーションシステムの通知に舌打ちする。
タンブラーのペリエを指先で揺らした。
一人、人待ちの時間はこんなに長かっただろうか、とタンブラーの縁を指で弾くと、カラン、と氷が崩れた。
ジウの母校のホームページを眺める。
校舎も制服も、当時と変わっていないと言っていた。
制服を着たジウを想像し、もし、同じ年頃で彼女に出会っていたら初恋をしていただろうな、とペリエを飲む。
持て余した時間に煙草を咥える。
カフェ・オ・レの匂いがすると、ジウはこの煙草を気に入っていたな、とポケットを漁る。
いつも持っているはずの100円ライターが見つからない。
(忘れたか?)
最近多い。
ジウと過ごす時間、煙草を吸わなくなったので、いつも習慣で持っていた煙草箱やライターを忘れてしまう。
カウンター内のバーテンに声をかける。
「悪い、ライター借りれるか」
お待ち下さい、と言うバーテンに、隣から声を掛けた人がいた。
「よかったら」
差し出されたのは、レトロなブックマッチ。
珍しい、と差し出す人を見る。
ジウと変わらない年頃だろうか。
癖の付いた伽羅色の髪と頬の鉤型のタトゥーが目についた。
礼を言って、受け取ったマッチを一本折る。
助かった、と返すと、カウンターに置かれていたタバコを掴み、礼を言われるほどじゃないさ、と席を立った。
空のグラスとコースターの下に置かれた札に、洒落た男だ、と黒帽子を被って出ていった背中を見送った。
✜
届いた中学の同窓会の案内に思い出したのは、黒髪がキレイだった初恋の人。
中学卒業とともに引っ越したため、高校の学区も変わり、会うのは卒業式以来だ。
少し早く会場について、柄にもなく高揚している気持ちを収めようとミニバーに寄った。
「シーブリーズ」
淡いピンクの見た目に反して辛口のそれを一口飲む。
隣にかけた人の手の煙草が、自分の愛飲するものと同じで目線を寄越す。
「ペリエをくれ」
バーに来て酒を飲まないのか、と見たカウンターに置かれる高級車のスマートキー。ライターを探す仕草の彼に、勤務先のブックマッチを差し出した。
「助かった」
にこりと笑う顔に、(女ウケしそうな男だ)とカウンターの帽子を手に取った。