第18章 イエス
週末の混雑する街。
仕事終わりに外出していたシャンクスと落ち合って、人通りの多い道を歩く。
交差点の横断歩道で足を止めた。
同じように信号待ちする通行人。
背後を行き交う人。
人波から頭一つ分高い隣を見上げる。
「どうした?」
視線に気づいたシャンクスが、微笑んで見下ろす。
なんでもない、と首を振って半歩、海の香りに近づく。
バス風に煽られた髪を抑える。
ふわりとおりた髪を温かい手が整えた。
青に変わってメロディが鳴り出した信号に、行こう、と手をひかれる。
「今日、車は?」
「置いてきた。偶には歩くのもいいだろ」
握った手を引き寄せ、ニッと笑う。
「偶になら、ね」
目線を逸し、横目に彼を見ながらすれ違う彼女らに目を伏せた。
それでも俯く度に、強く手を握って微笑んでくれる顔に、少し強くなれた。
✜
ジウとの待ち合わせ。
一度帰って車を取りに行くか悩んだが、位置関係上、時間がなくて徒歩で向かった。
仕事終わりのジウの手を引いて街を歩く。
失敗したな、と目線を周囲に向けた。
細いまつげが揃う目を伏せるジウは落ち着いた柔らかい雰囲気を纏っていて、いつもの藤の香りがする。
すれ違う男がジウに少し視線を取られる度に、目線で刺していく。
交差点で見上げてくるジウの髪がバスに舞い上げられると、はちみつの香りが広がって抱き締めたい衝動に駆られた。
鳴り出した歩行者用信号のメロディにハッとして、行こう、と手を引く。
車移動が多い中、偶に歩きたくなる。
ジウと手を繋ぎ、自分のものだと示しながら。ジウの事情を考えるとあまり頻繁にはできないが。
はじめは、周りを酷く警戒して落ち着きなくしていたジウも、今はこうして穏やかな顔で隣を歩いてくれる。時折、人の視線に気づいて顔を伏せるが、都度、手を強く握ってやると微笑んだ。
その笑顔を、他の男には見せたくないと隠すように引き寄せる。
「ジウ」
雑踏に消える、微かな声のはずだった。
「なに?」
その声も聞き逃さなかったジウ。
唇だけで伝えると、首を傾げて顔を寄せてくる。
少し身を屈め、ジウの小さな耳にぴとりと唇をあて、愛してる、と言うと、驚いた顔で耳元を抑えて見上げてくるジウの手を、強く握った。