第17章 Flavor
最近、漸くまともに使われるようになったらしいビルトイン食洗機を拭き上げたところで、ベランダに出ていたシャンクスがカーテンの向こうから姿を見せた。
ダイニングテーブルに置かれた100円ライターと煙草の箱。
「部屋では吸わない主義?」
ん?とこちらを向いた顔に問いかける。
「建物から自分の持ち物なら、わざわざ外に出て吸わなくてもいいのに、と思って」
「あー、前は換気扇の下で吸ってたが...」
部屋に煙草の匂いが染み付いていない理由はそれか、と見つめ続ける。
「ジウが来るようになってからは、中では吸わないようにしてる」
「どうして?」
別に煙草嫌いではない。
前に付き合っていた彼も喫煙者だった。
カウンターを回ってジウの髪を一束掬い上げると、スン、と鼻を寄せるシャンクス。
「ジウの香りを消したくないんだ」
はちみつと花の香り、と吸い上げる。
「ソファやラグに煙草の匂いが残ると、純粋なジウの香りが楽しめなくなるからな」
ニッ、と笑う顔を見上げ、ワイシャツに埋もれるように抱きつく。
「ん?どうした」
優しく髪を撫でてくれる彼の胸で、すう、と深く吸い込む。
塩辛い海と、微かにカフェオレの香りが混ざった紫煙の匂い。
「この匂い、すき」
ほう、と息を吐くジウ。
「煙草の匂いがか?吸わないと嫌うもんだと思ってたが」
「他の女の子は、そうだったの?」
見上げると、んー?と笑顔で誤魔化しながら、髪を撫で続ける腰に巻き付けた腕を少しきつくした。
「っ吐くぞ」
「最近、職場の先輩がカフェオレをよく飲むの」
緩めた腕を撫でながら、うん、と相づちを打つ声。
「ちょっと、ドキドキ、する」
あなたがそばにいるようで、とシャツに額を擦り付ける。
ジウ、と掬い上げられる頬。
クチュ、と絡む舌の辛さに、香りは好きなのに、と屈んだ首に腕を回す。
ようやく離れた瞳を見つめる。
「同じ匂いがするとついて行きたくなっちゃう」
「おいおい」
危なっかしいな、と優しく髪を撫でながら抱き寄せる手。
「ついていかないように、しっかり掴んどかないとなぁ」
優しく笑う瞳を見つめ返すと、たくさんのキスが降り注がれた。