第16章 I dreamed of you
「シャンクスっ」
珍しく自ら抱きついてきたジウ
ニヤける口元を隠しもせず 胸のあたりの黒髪を撫でる
「あなたに出会えてよかった」
満面の笑みのジウに 俺もだ と頷く
「今までありがとう」
俺こそ と言いかけて 違和感に手が止まる
今まで?
「さよならっ」
きつく抱きしめていたはずのジウが するりと腕から抜けて走り去っていく
「ジウっ」
伸ばした手の遥か先
男と思われる影に寄り添って去っていくジウの影
だれ? なぜ? どこへ? どうして?
力が入らなくなった脚がガクリと折れて 頬が冷たく濡れた
行かないでくれっ
「ジウっ」
伸ばした手の先には、見慣れた天井。
ハッハッハッ、と浅く早い呼吸で、心臓が全速疾走の後のようにひりつきながら早く脈打っている。目尻に垂れた冷たい感触で、夢だ、と理解した瞬間、足の先まで入っていた力が一気に抜けてベッドに沈み込む。
くたりと腕をおろし、悪夢かよ、と乾いた喉で零す。
少し目線をずらして時計を確認するとAM02:17。縁起が悪い、と眉を顰める。
水でも飲もう、と起き上がると枕元の携帯の液晶が光った。
こんな時間でもわりかし仕事の連絡などが入ることがあるので、特に気にもせず眩しい画面に目元を擦る。
受信したメッセージを開く。記憶に一番新しいジウとのやり取りから一つ増えている。
-寝てるよね?-
画面左上の表示と同じ時間を示す受信時間に、返信を打たず、電話をかけた。
-ごめん、起こしちゃった?-
静かな声に、大丈夫、とベッドに腰掛ける。
-いやな夢を、見ちゃって...それだけだったの。ごめんなさい-
くしゃ、と前髪を掴んでおろした脚に肘をつく。
「俺も」-え?-
夢を見た、とかすかに震える手を握る。
「明日、仕事か?」-ううん。公休日-
携帯を持ち替えて寝室を出ると、部屋着に一枚羽織っただけで、最低限の荷物を手にサンダルを履く。
「そっちに行く」 -運転、気をつけてね-
わかった、とすぐに来たエレベータに乗り込む。
-シャン、-「なんだ?」
-このまま、切らないで-
鼻を啜る音が聞こえ、切らない、と地下の駐車場の車に乗り込む。電話越しにタイヤの滑る音が聞こえないよう、ゆっくりと走り出した。