第15章 Girl's Eye
人の通りが多い駅前に佇む二人の女性。
「あの人は?」
「...指輪してる」
じゃあ隣、と目線を変える。
「スーツの上下が違う。論外」
「よくわかるねっ!?」
ジャケットはブランド物だが、スラックスは限りなく色を寄せた量産品で、他に高価そうな装飾品も見当たらない。
今夜を楽しませてくれそうな男の物色を再開した友人が、ねえ、と袖を引く。
「彼は?」
期待もせずにチラ、と向けた目に、車寄せの横の歩道に立つ姿が映る。
緩い癖の赤髪。
長躯に纏うのは、生成りの開襟シャツにブラックジーンズ。
黒のテクニカルレザーのブレザーが髪の色を引き立てている。
足元に目を落とすと、靴下にサンダル。
なし、と言いかけた時、ふとこちらに向けられた目に言葉を詰める。
目があった気がして、見つめ返すと笑う。
スッと左手を上げて歩み寄ってくる姿に、隣の友人が嬉しそうに腕を掴む。
「ジウっ!」
笑顔の彼が通り過ぎた時、ふわり、と香る海の香り。
「ありゃ、彼女待ちだったのかぁ」
残念っ、と肩を落とす友人を無視して振り返る。
彼の前には、OLといった風貌の落ち着いた雰囲気。
彼のシャツの襟を整えた彼女の鞄を取る右手に嵌められた腕時計に目を剥く。
一千万はゆうに超えるモノだ。
手慣れたエスコートで、車寄せの最後尾の枠に止まる赤の車に乗り込む。
「腕時計一千万超え」「っまじっ!?」
お金持ちかな、と走り去る車を目で追う友人。
「車、高ランク、ジーンズもブランドヴィンテージ。年齢的に愛人かガチの恋人か微妙なところだなぁ。お互い指輪もしてなかったし、女の方に贈り物っぽい装飾品も無かった」
「あの一瞬でそこまで見抜くかっ!」
怖ッ!とふざける友人を尻目に再び人並みに目を向ける。
「でも、顔に大きめの傷がある男はナシ」
「え、なんで?」
笑った目元の傷を思い出す。
「厄ネタ抱えてることが多いから」
「ねぇ、それって経験?それとも私の知らない常識?」
さぁね、と目線を反らした先に視線を固める。
同じ年頃の若い男二人組み。
仕事帰りか、リュックを背負って帽子を被った、今時、といった風貌。
「あの二人、医者か医大生」
「え、なんでわかるの」
キャスケット帽の男の手を指差す。
「医学書持ってる」
「どんな視力してんのっ?!」
行こ、と歩みだして、にっこりと男性用の笑顔を携えた。