第13章 痕跡-アト-
携帯のリマインドで、明日がゴミ出しの日だと気づく。
一番大きいキッチンのゴミ箱から袋を外し、他のゴミ箱の中身を集めていく。
(あ、)
寝床から一番近い小さめのゴミ箱に入った、握りつぶされた黒い箱。
イギリス海軍のガレオン船の名の銘柄。
船の名前というのが、なんともらしくて印象深かった。
コーヒーの香りが交じる黒い箱は、コンビニや自販機に並んでいるところを見たことがなくて、いつもカートンで彼の書斎の一角に置かれている。
紙巻き煙草といえば白、と言うイメージがあったジウは、初めてシャンクスの喫煙の場面を見た時、それがブラウンだったことに少し驚いた。
柔らかい、カフェ・オ・レに似た香り。
コーヒーにミルクをだけを入れて飲む彼にピッタリだと思った。
鼻腔の奥で、慣れた香りを思い出す。
まとめた袋を翌朝、出し忘れないよう玄関先に置く。
ベッドに入る前。
バッグから赤いアトマイザーを取り出す。
分けてもらった彼の香りを枕にひと吹きする。
布団に入って、ふぅっと息を吐くと、枕を顔を埋めて深く吸う。
(いい香り、)
モゾ、と顔を横に動かし、目を閉じる。
潮騒の聞こえる場所で、苦い果実を手に微笑む赤へと、遠ざかっていく意識の中で駆け寄った。