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依々恋々 -Another story-

第42章 Valentine



「なにこれ?」

業務を終えて助手席に乗り込んできたジウが目を向けたのは小振りな紙袋。
助手席に置いていたショッパーのようなそれを後部座席に放る。

「あー、あれだ。ほら」
ん、とカーナビに表示された日付を指さす。
「あ、バレンタイン?」
目線を向けたナビの日付は2月14日。

「会社の人から?」
でも一つ?とその数に疑問を問いかけるジウに、シャンクスは、それがなぁ、と苦笑い。

「ちょっと、断れなくてな」
「どういうこと?」
怪訝そうなジウに、シャンクスは話しだした。

「いつも断ってるの?会社でもらったりしない?」
チョコレート好きじゃない、と聞くと、それなぁ、と苦笑いの彼に首を傾げる。

「まず、会社の方は、以前は若い女社員たちが用意して配ってたんだが、今はやってない」
「あら。『袖の下』的なことでもあった?」
いやいや、とシフトレバーを動かしてジウの手を取る。

「過去に、ベック宛のチョコレートが会社外からも届いて、1年で消費しきれずに、資料庫が一つ、チョコレートで埋まってな」
「え、埋まった?」
驚いて見上げた横顔は、あれはすごかった、と思い出して苦笑い。

「置き場がなくなって、適当に打ち合わせスペースに置き始めたら、テーブルに乗らなくなって、資料室の片隅に袋を用意してそこに放り込んでたら、今度はそれが箱になって積み重なって、後で整理を、と思ってたら次のバレンタインが来て、と」
「ええ、」
「んで、一緒に後で整理してもらおうと俺もそこに放り込んでたら、ヤソップも『嫁さんの目につかない所に』と、置くようになって、ホンゴウやライムジュースも処分に困るものを置き出した結果、どれが誰のか分からなくなって」
「見て見ぬふりをして放り込み続けていた、と」
そう、とシャンクスは頷いた。

「置き場が無くなってきたんで社内でのやりとりは禁止にして、溜まった分も一斉処分したんだ。」
「なるほどね」

振り向いた後部座席に置かれた紙袋。
店名はなく、どうも店の袋ではない。
となると、中身は手作りだろうか。

「じゃあ、社外から?」
「それがな、」

断りきれなかった理由はなんだろうか、と見上げたシャンクスの瞳は、優しかった。
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