第39章 Stepper
すみません、という声に目線を下げると、黒髪の少女。
「すまない、」
怪我無いか?と問いかける前に、彼女を呼ぶ声。
「どうした?」
「いえ、ちょっと」
恋人か夫婦か。
「大変、失礼いたしました」
ペコリ、と頭を垂れる彼女の隣には、同じ黒い髪を白の髪留めでまとめた男性。
「妻が失礼を...」
「なに、見てなかったのはこちらもだ」
男に肩を抱き寄せられた彼女に笑いかける。
遠くなっていく二人の後ろ姿に、ジウより小さいな、と思った。
そしてふと気づく。
二人の身長差が、自分とジウのそれに近い、と。
仲良さげに歩いていく二人。
エスカレータに乗ると、一段下に立つ男を彼女が振り返った。
高い位置から低い位置の男を見上げ、何かを言う彼女に、男は微笑んで頷く。
(なるほど、階段か...)
互いに集合住宅に住んでいるため、家に階段はない。
頻繁に使うのは、ジウの部屋の共有階段だけ。
階段も無理か、と諦めかけ、待てよ、と腕を組んだ。
「そうかっ」
パッ!と閃いて、駆け出した。
✜
家具屋に並ぶ踏台やステッパー。
18cmという半端な数字は、意外と品揃えが多かった。
問題はどう理由付けでジウに使ってもらうか...と考えあぐねる。
「そういやぁ」
日頃のジウを思い出す。
自宅のキッチンには吊り下げ収納がついている。
長く活用されていなかったそこは、ジウが来るようになってから使用頻度の低い食器や調理器具などをしまっていた。
それらを使う時、ジウはキッチンのダイニングチェアをキッチンへと運び座面に乗って取っていた。
取ってくれ、と甘えてくれればいいものを何も言わずにいそいそと椅子を運ぶので、気付いた時は「『取ってくれ』と呼べばいい」と言いながら代わりに出していた。
ダイニングチェアの座面の高さはせいぜい20〜30cm。
椅子の上に立つというのは危険を伴う行為でもあるので、自分がいない時用に、というのは不信感もない。
「よし!」
理由は完璧!と、意気揚々にキッチンに違和感のない色合いのステッパーを選び、ルンルンとして会社へと戻って行った。
✜