第37章 FRIENDS
「あいつは女に本気にならない」
ダンが持つプラカップが、パキリと割れた。
「誰も、愛したりしなっ」
ヒュン、と風を切ってダンを吹き飛ばしたのは、サンダルを履いた脚だった。
しん、と静まり返った中で、ザザッ、とダンの体が作業場の床で滑った。
「っダンさん」
慌てて駆け寄ろうとしたジウを制すると、シャンクスは静かにダンの側に歩み寄った。
「っしゃん、くすっ」
「なぁ、ダン」
切れた口の端を拳で拭う彼の傍らに屈み込んだ。
「俺ぁ、昔からてめぇのことを誰にどう言われようが知ったこっちゃねぇ」
頭を左右に振ったダンが、痛、と顔を歪める。
「だがなぁ、」
瞬時に左手でダンのシャツの胸倉を掴んだ。
「恋人が傷つきゃ、それなりに頭沸くんだよ」
怒りに燃えるブルー・グレイの鋭い視線に、ダンは、だって、と俯いた。
「あ?俺が納得できる理由があんのか?」
「っシャンクスはズルいっ」
蹴られた右頬は、赤く腫れ始めている。
何が、と言いかけたシャンクスの手を払うと、ダンは駆け出して行った。
「ダンさん」
「ジウ、追うな」
「でもっ」
左手を開いたり閉じたりしながら、ダンが駆けていった方を見つめるシャンクスに、ジウは口を閉ざした。
静まり返った場を取り持ったのはダンの両親だった。
悪かった、と謝る父親に、いや、とシャンクスは静かに首を横に振った。
あの子のこと嫌わないであげて、と縋る母親に、これからも幼馴染で友達には変わりない、と答えたシャンクスに、両親は安心したような憂うような顔で、ありがとう、と言った。
✜
車が混み合う道に、チッ、と舌打ちをしたシャンクスの右手をジウが握った。
「ダンさんのこと、気づいてたの?」
握った手を見ながら問いかけたジウ。
少し、手を引き寄せたシャンクスの右腕に側頭部を当てる。
「...昔、酔ったアイツに告白された。
『ずっと好きだ』と。」
そう、と言ったジウに、シャンクスは少し先のSAの案内を見つけて、一番端の車線に寄った。
「酒の場だったから、笑い話で片付けたんだが...
ジウの前で蒸し返さんでも」
溜息をついて走行車線から外れると、SAのパーキングに停めた。
「コーヒー、買ってくるね。
他に欲しいものある?」
一緒に行く、と車を降りたシャンクス。