第37章 FRIENDS
シャンクスの言う通り、空席が目立つ。
おっ、チビたちだ、と顔見知りらしい社員はルフィとウタに親しげに話しかけ、結われたシャンクスの髪に驚いたり笑ったりした。
途中、技術部のヤソップと執務室にいたベックマンにも会ったが、ジウを「ハウスの臨時職員だ」と説明するシャンクスに聡く察して、話を合わせた。
「社長」
コツ、となったヒールの音。
「何だ、セシル。休み、取ってないのか?」
ペンシルスカートのスーツを着た彼女が差し出したタブレットを覗き込むシャンクス。
「来週のパーティ用に新調するスーツのデザイン案があがってきていたので、その確認を」
「休み明けで間に合うだろ」
「早めに片付くものは片付けておきたいもので」
真面目だなぁ、と渡されたタブレットでいくつかのデザイン案に目を通し、数案に絞る。
「ジウ」
ちょっと来い、とベックマンと共にウタとルフィの相手をしていたジウを呼びつけたシャンクス。
怪訝そうにするセシルに会釈したジウは、職員だ、と紹介された手前、何でしょうか、と事務的に答えた。
「どっちか選んでくれるか?」
「え?私が、ですか?」
驚いた顔のジウに微笑み、好みでいい、と頷く。
「いつも似たりよったりになる。たまには違う目で選んてもらうのもいいだろう」
どっちがいい?とタブレットをジウに渡す。
えっと、と見比べて唇を指先で撫でるジウ。
「ネクタイを、着用されるのであれば、右のものに無地のホワイトシャツとワインレッドのタイでどうでしょうか?ノーネクタイのスタイルならば、左のものに黒のシャツを合わせ、差し色にポケットチーフを深めの赤か青にされると、割とまとまるかと思います」
向けられたタブレットを見て、わかった、とセシルに返す。
「右にしてくれ。タイは手持ちのを合わせるから、新しいものは無くていい」
「かしこまりました」
失礼します、とヒールを鳴らして立ち去ったセシル。
ジウと目が合ったシャンクスは、空口で、大丈夫、と頷いた。
フロアを走り回るウタとルフィのもとに行くと、社員たちからお菓子をもらって、楽しそうにしていた。
フロアを出る直前に振り返ったセシル。
しばらく中を見つめると、静かに取り出した私用の携帯。
微かに鳴ったシャッター音は、誰にも気づかれることはなかった。