第1章 レイン・エイムズと同室の女
「…………困ったな」
「本当にね……」
教室の方からは先程の女生徒による甲高い悲鳴とガヤガヤと騒がしい野次馬の声のようなものが聞こえてくる。もう、今更止まれない……この噂。
「しかもですね、更にどえらいことがありまして」
「なんだ」
「さっきの女生徒のステータス見たんですけど……あの子の親、新聞記者らしいんですよね。しかもゴシップ系の」
再び嫌な風が通り過ぎる。
無表情で私を見下ろしているこの上級生は今何を考えているのだろう。
「まあ、あれだ。とりあえず仕事の話をしよう。ここではなく部屋で」
「はい……」
私とレイン先輩は連れたって寮まで戻って行った。
その間どこを通るにも遠目からヒソヒソと何か噂されていたことは言うまでもない。
「考えたんだが、こうなったらもうお前は俺の恋人ということにしないか」
「何をどう考えたらそこに着地するんですか」
部屋に戻るなりレイン先輩はどっかりとソファに腰を下ろす。そして無表情でとんでもないことを言い始めた。
「実際俺にはそれなりの権力がある、噂はもみ消そうと思えば消せるだろう。だがここまで目立ってしまった手前、今更神覚者レイン・エイムズと・は無関係だと放り出せばどうなるか……お前を危険な目に合わせるかもしれない。俺は常に学校内にいるわけではないからな」
「えと、つまりどういうことですか?」
「この女に手を出したらレイン・エイムズが怒って出てくる、と思わせておいた方が牽制になるということだ」
「なるほど」
確かに私の魔法は戦闘向きではなく、誰かに襲われでもしたらひとたまりもない。
しかし男子寮に住んでいる2本線の女など嫌でも目立つ。既に様々な方面から目をつけられていることは想像に容易い。
そうなったときレイン先輩がバックにいると思われていた方が都合が良いだろう。
「でも私が戦えないのは自己責任の問題です……先輩に変な噂を背負わせることになるのはさすがに気が引けるというか」
「構わない。お前には仕事を手伝ってもらうのだし、ついでに言えば女につきまとわれるのには俺もほとほと困っていたからな……。……それに」
レインは立っていた私の手を引き、隣に座らせる。
「戦えない者を守るのは強い人間として当然のことだ」