第1章 レイン・エイムズと同室の女
「そうだ」
私は抱えていたトランクを一旦床に置いて鍵を開ける。そして中からうさぎのぬいぐるみを取り出し、彼に差し出した。
「これ、よかったらあげます。実はここに来るまでの移動時間に暇潰しで作っていたんですが……レイン先輩なら可愛がってくださるかなと」
「え」
レインはうさぎを凝視している。
しかし喜ぶでもなく相変わらず冷たい目をしていて、何を考えているのかはよく分からない。余計な気遣いだっただろうか。
「……ありがとう。もらっておく」
彼は差し出されたうさぎを受け取ると丁寧に懐にしまい、改めて椅子から立ち上がりこちらに向き直った。
「ところで」
「はい」
「やはり同室にしないか」
「はい!?」
えっどうしたんだ急に!? 意外と女好きの人なの!?
しかし改めてステータスを見てみるも、やはり異性のタイプについては『考えたことがない』と書かれており女好きどころかむしろ真逆のタイプに思える。
だがその代わり別のステータスが変動しているのに気づいた。
好感度……『40%』!?
当然だが初対面なのでその項目は先ほどまで0%だった。どうやら今の一瞬で急上昇したらしい。
うさぎを……あげただけで!?
「誓って変なことはしない。お前のうさ……魔法を頼りにしたいだけだ」
今うさぎって言いかけたな。
「いやいや、だからって男女で同室は問題あるんじゃないですか? バレて変な噂が立ったら先輩も困るじゃないですか」
「問題ない。やましいことはないのだから、逆に堂々と公表すれば良い」
「そ、そうかな……」
だがしかし、私も自分の魔法が役に立つというなら頑張りたいのも事実。
それもあのレイン・エイムズに頼りにされているのだからできれば断りたくはない。
私は魔法で役に立ちたい気持ちと男性と同室になる問題を天秤にかけ、しばらく逡巡したのち最終的に頷くことにした。
まあこの人のステータスには『異性のタイプ:考えたことがない』とはっきり書いてあるのだし問題ないだろう。
「……分かりました。私、これからこの部屋で頑張ります!」
「ありがとう」
私の言葉を聞き、レインは少しだけ頬を緩める。
そして大きな手をこちらに差し出した。
「今更だが俺はレイン・エイムズだ。これからよろしく頼む」
こうして私たちの奇妙な同室生活は幕を開けることとなったのでした。
