第2章 *File.2*
「まーた逃げられちゃいましたね。今回でもう何連敗ですか?」
「…うるせーよ」
「ぜぇったいにキッドを捕まえちゃダメですからね!中森警部!」
「絶対にダメですからね!」
梓さんの言葉に、雪乃さんも頷いた。
実は二人して怪盗キッドの大ファンで、キッドを捕まえられずにしょぼくれた中森警部を見ては、こうして揶揄う。
「あのなー。おれはキッドを捕まえるのが仕事なんだよ!今回は大阪の探偵ボウズと長野県警の敏腕刑事もいたから、いけると思ったんだがなー」
「長野、県警?」
「確か捜一の諸伏、とか言ってたか?」
「諸伏…」
声には出さなかったが、雪乃さんの唇は確かにその名を呼んだ。
「!」
そして。
ホンの刹那の時間。
軽く瞼を伏せると、ひどく優しい笑みを洩らした。
何処か喜びにも見えたそれに、俺は何故?と疑問を感じるよりも先に、ただ心を奪われてしまった。
「安室さん?」
「……」
「安室さんってば!」
「あ、ああ。すみません、梓さん」
「どうしちゃったんですか?珍しいですね、安室さんが仕事中にボーッするなんて」
「もう大丈夫です。で、何か?」
「さっきもお伝えしましたけど、私、急用が入ったので、先に帰らせてもらいますね」
「はい、どうぞ。お気を付けて」
「雪乃さんも後は宜しくお願いしますねー」
「はーい。お疲れ様でーす」
既に時間ギリギリなのか、梓さんは慌てた様子で店を後にした。