第5章 *File.5*
「大丈夫。雪乃の気持ちは十分に伝わったよ」
「それはよかった。けど、何かごめん」
「謝ることは何もない。雪乃」
「はい」
「俺で、いいか?」
「…バカね。私は降谷零、貴方がいい。零じゃなきゃ、私は幸せにはなれないよ」
「では、約束だ」
「はい」
笑顔で頷いた雪乃の柔らかな頬を撫で、誓いのキスを送った。
「眠れないのか?」
「子供の頃から、遠足の前日は、テンション上がって寝れないタイプだったのよ」
「…分かる気がするな」
恥ずかしいと、ベッドの中で背中を向けていた身体をこちらに向けてもぞもぞと動くと、すっぽりと胸元に収まる。
「……」
「珍しいな」
当たり前の話だが、付き合いだしてから雪乃の性格に関して分かったことがいくつもあって、その中の一つが、普段は意外と淡白で二人きりの時でさえ素直にあまえたりはしない。いや、淡白ではなくかなりの照れ屋、だからか。
「……迷惑?」
「まさか。逆に嬉しいよ、恋人として」
「よかった」
「!」
この腕の中にある柔らかな温もりに、さっきから理性と葛藤しているのに、本人は無自覚だから、上目遣いで嬉しそうにふわりと笑う。
絶妙なタイミングで。
悪い。
僅かに残っていた理性が、今飛んだ。
「雪乃」
「ん?」
何故か胸が苦しくなるぐらいの幸せを感じて、雪乃の上に跨ると、啄むように何度も唇を重ねる。
誰よりも傍にいる、安心と。
触れ合える距離にいる、喜びと。
直に伝わって来る、愛情に。
「……んっ…れ、い?」
「我慢出来ない」
「は、はい?ちょ、まっ…」
「待たないし、朝は俺が起こすから問題ない」
「そ、そういう問題じゃない!」
「はいはい。よく眠れるようにしてやるから」
「えっ?!」
「だから、安心しろ」
目を白黒させるから、ニッコリと笑う。
「あ、安心なんか出来っ」
時間の無駄だと言わんばかりに再び唇を塞いで深く口付けると、雪乃のパジャマのボタンに手を掛けた。