第4章 *File.4*
「零を愛してるから。万が一、私が死んでしまっても、貴方だけは生きていて欲しい。それが私の一番の願いなの」
「…酷なことを言うな」
また俺一人が生き残り、その後の人生に絶望を味わえと言うのか?
これ以上、大切な誰かを喪うことだけは、もう二度としたくない。
ならば、自分が犠牲になった方が俺は救われる。
「もし、私と零の二人が生き残れたら、一緒に過ごす時間を増やしませんか?」
「もしもの話じゃない。俺はこの先何があっても絶対に生き残ってみせるし、この手で雪乃を護ってみせる」
あらゆる、どんな手段を使っても。
「…零」
「だから、待っていろ。組織のことが片付いたら、必ず迎えに行く」
「……」
「不満か?」
「私には…」
「そんな価値などない、と?」
「……」
「一体何が、そこまでお前自身の価値を下げる?」
「……」
静かに首を縦に振った後、次には分からないと、首を横に振る。
「アイツにつまらないオンナ、地味なオンナだと言われたのが原因か。やはりさっき、思いっ切り一発殴っておくべきだったな」
いや、一発どころか、いっそのことボコボコに殴り倒しておけばよかった。
例えあの言葉がアイツの本心ではなかったとしても、元々は大人しい性格で、派手な言動が苦手の雪乃の心は酷く傷つけられた。
何年経っても忘れられないぐらいに、自分でそう思い込んでしまうほどに。
言霊とは、時には恐ろしい。
「…殴る?」
「あのオトコに俺が嫉妬しない、怒りを感じないとでも?」
「……」
「雪乃が梓さんに嫉妬していたのと、同じだ」
「うっ」
「ポアロにいる時は、そんな素振りを一切見せないのにな」
「…あむあず設定だと思ってたから、梓さんに嫉妬して態度に出したところで何の意味もないし、私は梓さんにとてもお世話になってる立場だし、そもそも梓さんが好きだから嫌いにはなれないし。私はこの世界に転生して、みんなに会えたことだけでも感謝しなきゃと思ってた。何より…こうなることを望んではいなかったと言えばウソになるし、零とこんな関係になれるなんて、思ってもみなかったから」