第4章 *File.4*
「ヤレヤレ。大丈夫か?」
「うん、来てくれてありがと。風見さんも助けていただいて、有難うございました」
腕を解かれてペコリと頭を下げると、濡れた頬を指先で拭いてくれる。
「い、いえ。自分は降谷さんの指示に従ったまで。礼には及びません」
「今回の事は、本来のお仕事ではないはずですよ」
「…ふっ。風見」
私がビシッと言い返すと、零は可笑しそうに笑みを洩らす。
「わ、分かりました。では、どういたしまして。貴女がご無事で良かったです」
「はい!」
「……」
やっぱり何処か困った表情で、居心地が悪そうに見える。
「風見、今日は此処で解散でいいか?」
「はい」
そう切り出した零の言葉に少しホッとしてるのは、今の零が普段の公安の降谷零ではないから?
「明日、僕は非番だから、後は頼んでおく。何かあったら、直ぐに連絡をくれ」
「承知しました。それでは」
「お疲れ様でした」
「?」
「それから、時間的にまだ早いですが、おやすみなさい」
「!」
風見さんは眼鏡の奥の細い目を少し見開いたまま黙って軽く会釈すると、この場を後にした。
「まるで、二人の性格が融合してるみたいだな」
「…そう?」
「事情を知っているはずの風見が、珍しく困惑していた」
「う〜ん」
「悪い意味でも悪いことでも無い。分かり易く言えば、幼い性格と歳相応の性格が明確になったということだ」
「うん?それって、元々のやんわりした二重人格が明らかな二重人格になった、って言う意味なんじゃ?」
「くっ」
目を見張ったのは一瞬。
やっぱり次の瞬間には、爆笑してる。
図星ですか?
「実は笑い上戸なの?」
「それは無い。雪乃はきっと…」
「きっと?」
「喜怒哀楽の年齢幅が、人より大きいんだと思う。とは言え、俺にとって雪乃が一番可愛くて愛しいことには、何一つ変わりがないよ」
「…まーたすぐそんなこと言う」
甘やかされるのは嬉しいけど、恥ずかしさの方が勝って困る。