第4章 *File.4*
「最高?アンタ、目ん玉腐ってんじゃねえの?」
「それは君の方だ。雪乃の魅力と可愛いさは、僕だけが知っていればいい。一年以上も傍にいて、君は雪乃の何を見て来た?都合のいいことばかり言って身の回りのことを押し付けて、雪乃を信じることさえしなかった。挙句の果ての偽装工作と誹謗中傷で、あの女性と手を組み、何の罪もない雪乃を職場から追い出し辞めさせた。違いますか?」
「…お前がチクったのかよ?」
「いいえ、違いますよ。職業柄もあって、僕が勝手に少し調べただけです。僕は、辛い過去を無理矢理聞き出して、雪乃に哀しい顔や思いをさせたくはありませんから」
「……」
ねえ、抱き着いてもいい?
嬉しすぎて、泣きそう。
どうして何事もなく当たり前のように、私を大切に想って、愛してくれるの?
私が知らない場所で、四方八方あらゆる手を使って私を護ってまで。
零に出逢い、私は初めて愛する人に愛される悦びを知ったの。
コトバにならないぐらいに、今幸せです。
「雪乃?」
「…ありがと」
こちらを振り返った零に顔を見られないように俯いたまま腕を伸ばして、ギュッと抱き着いた。
私の我慢が限界です。
人前なのに、ゴメンなさい。
涙でスーツを汚さないようにしますから。
「雪乃は可愛い過ぎて困るよ」
耳元で優しくそう囁いた後、ふわりと抱き締めてくれた。
まだ付き合い始めて間もないはずなのに、心地良い温もりに素直に安心する。
私は此処にいていいのだと、俺が護ると、零が伝えてくれている。
「まだ何か?」
「チッ」
「最後に一言。彼女にも言いましたが、もう二度と雪乃には近付かないで下さい。心優しい雪乃は出来なくても、次は僕が警察に即通報しますよ」
口調は変わらず丁寧なのに声音は低くなり、更に怒気が混じった。
「……」
零の場合、警察に通報する前に自分の手錠を出して来て、自ら現行犯逮捕をしそうで怖いのですが…。
黙ってコトを見守る風見さんも、同じことを考えていそうだ。
「クソッ」
悪者の定番の言葉を吐き捨てて、元カレは去って行った。