第4章 *File.4*
「…どうして、此処に?」
「お前にイケメンの男が出来たって、アイツが騒ぐからよ。少しは変わったのかと見に来てやったけど、なーんにも変わらず地味なままかよ」
「……」
一人になるのを狙ってた、ってこと。
次から次へと、マジで勘弁して下さい。
「どうせ全部都合のいいウソだろ。お前みたいなつまんねー女に、イケメンの男が出来るわけねえもんなー?なんならアイツと別れて、おれがまた付き合ってやってもいいんだぜ?」
「……」
バッカじゃないの?
何様のつもりで、どれだけ上から目線よ?
確かに、ね。
私自身もあーんなちょーハイスペでちょーイケメン彼氏が出来るとは、思ってもみませんでしたよ!
『安室の女』
この立場のヒトになることを、どれだけの女性達が憧れてると思ってんの?
この世界の住人も合わせたら、一体何人いるのやら?
想像も出来ないし、その前に想像もしたくありませんが。
だからこそ。
零には悪いけど、まだ心の片隅で疑ってる。
本当に、私でいいの?って。
カノジョの記憶があってもなくても、彼から与えられる溢れんばかりの愛情を、素直に受け取っていいの?って。
真っ直ぐ私に向けられる、貴方の想いを信じてもいいの?って。
二人で過ごす時間が長くなるほど、不安や葛藤で胸の奥がモヤモヤするのは、気の所為じゃない。
言葉にしたら、酷いオンナだと別れられる?
私は私自身に自信が持てないから、どちらにしろ、きっと直ぐにそこに辿り着いた。
もしかしたら。
零は私のこんな心境すら、気付いているのかもしれない。
「何とか言ったらどうなんだよ?」
「…言いたいことは、それだけ?」
貴方は、何も変わらないのね。
別れた頃には、付き合い始めた頃とは別人のように変わってしまった。
「ハア?」
「時間が勿体ないから、帰るね」
「ちょ、ちょっと待て、よ?!」
「!!」
こちらに向かって伸びて来た指先に、怖くて身体を竦めたその時、
「元カレとは言え、ストーカー行為ですか?」
バシンッと手を払い除けた強い音と共に聞こえた、抑揚の無い低い声。
会ったことはない。
だけど、私はこの声の主を知っている。