第4章 *File.4*
「貴女、まだこんなトコで働いてたの?」
「!」
「ねえ、望月さん?」
相も変わらず定時きっかりに無理やり仕事を終わらせて来たらしい、身体のラインが出るスーツを着た女性が来店した。
長い髪に軽くウェーブを掛け、濃い赤のリップ。
どちらかというと一般的には美人の類いに入るんだろうけど、性格がキツそうな印象も受ける。まあ実際にその通りっていうか、キツそうな、では済まないちょー最悪最低な性格だ。
このオンナに対してだけは、さすがの私もそう言い切るわ。
「いらっしゃいませ。空いてるお席にどうぞ」
私に関わるのは、もういい加減止めて欲しい。
前の職場で、男性関係を含めて無いことないことを社内で言い触らされた上に、このオンナの仕事のミスまで巧妙に細工までされて、その度に責任を押し付けられた。
それに耐えられなくなったと同時に、これ以上の迷惑を掛けられないと、私は前の職場を自ら辞めた。
その全ての元凶が、このオンナ。
当時の私が、貴女に一体何をしたって言うの?
私には身に覚えが全くない。
最初は何がどうなっているのかさっぱり分からなくて、どんどんエスカレートしていく陰湿なイジメに腹が立って、悔しくて辛くて、でもどうしていいのかも分からなくて。
何よりそれが執拗だったからこそ、とばっちりや報復が怖くて、仲の良い友人にも中々相談出来なくて。
オマケに一番の相談相手だったはずの元カレは、このオンナの話を鵜呑みにしたばかりか、味方にまで成り下がった。
挙句の果てに、容姿が地味に色気がないやら、抱いても反応が薄い、社内の男性達に媚びを売ってるだとか言い出して、社内では噂が噂を呼んで最後はもう散々だった。
その前に元カレへの愛は冷めてはいたけど、一人で悩んで散々泣いて、精神的に疲れ果てた後、とうとう抗うことも止めた。
そしてもう、色々と諦めてしまった。
本当はあの頃を思い出すのは嫌なのに。
普段は極力思い出さないようにと、心の奥底で蓋をしているのに。
この顔を見れば、嫌でも思い出してしまう。
それでも、今は冷静を装う。
全ては終わった、過去のことだと。
当時の私の親友と呼べる数人の社員達は、私に何があっても誰に何を言われても、ずっと味方でいてくれたのだけは幸いだった。
勿論、今でも仲良しだ。