第3章 *File.3*(R18)
「カノジョは実在していた、んですね」
「ああ」
雪乃さんの住まいであるマンションで、今は二人きり。
これ以上の話はポアロではしにくいからと、提案されたのが此処だった。
きっと今の彼女には、深い意味はないだろう。
いや、ワザと意識をしないようにしている、か。
俺には前科がある分、意識しないはずがない。
他人が介入出来ない二人きりになれる場所。と言う意味あいだけだと、自分にも言い聞かせて。
「貴方が信用するかしないは別にして、結論を言います。カノジョは私の前世の姿に等しいです」
「…前世?」
また随分と、ぶっ飛んだ話だな。
「私の中には、カノジョが生きていた時間の記憶が全てあります。旦那や子供達のこと、カノジョのご両親や祖父母、友人のこともです」
「では、今のキミには、雪乃さん本人とカノジョの二人分の記憶があると?」
「ええ。それは何故か?答えはたった一つ。カノジョにとってのこの世界は、二次元の世界だから。早い話がカノジョは亡くなったと同時に、何故か本人ごと異世界に転生したってことです」
「……二次元?この世界が?」
「はい。『名探偵コナン』と言う、ある漫画家が描いている物語です。だから、カノジョを通して私は知っていました。貴方が警察庁公安ゼロの降谷零であり、私立探偵の安室透であり、黒ずくめの組織の一員であるバーボンであることと、長野県警の諸伏高明警部のことも」
「キミとカノジョの記憶が繋がったのは、俺との初対面のあの日、と言うことか」
「あの頭痛はそういうことです。ただ、あの組織がこの先どうなるのかは分かりません。連載途中だったので、結末はまだ誰にも」
『名探偵コナン』=名探偵=江戸川コナン、が主人公。
だから、本人の意思とは関係なく、コナン君の周りでは多種多様の事件が多発し、その度に彼が解決するのか。
「仮にキミの発言が全て本当だったとしても、だ。そもそも…」
「?」
「何故、この世界に来た?カノジョが元いた世界にもたくさんの、それこそ数え切れないほどの本の世界があったはずだ」
「……あー、それは多分」
「多分?」
ローテーブル越しに、顔ごと背けられる。