第2章 魔導書
私は手の中に黒い塊を作り出す。この塊は高周波数音を鳴らす特殊な置物だ。
……そう、ホームセンターとかで売っているカラス撃退用のアレである!
起動していればものの数秒、カラスたちはたちまち嫌そうな顔をしてどこかへ飛び去って行った。
それと同時に置物が溶けて消える。複雑な機械だったためかフル稼働だと全然持続できないらしい。
「……アレ? どっか行っちまった。もしかしてオマエが助けてくれたのか!?」
「なんだか困ってそうだったから。大したことじゃないし気にしないで」
この世界じゃカラスの生物学的な生態なんて明かされてないから分からないもんね。
「あ、ありがとうございまァァァァァァァす!!! オレ、アスタ!!」
「元気だねアスタくん。私はラルカ。よろしく」
差し出された手を握り返せば、横で事態を静観していた黒髪の少年が感心したような声を漏らす。
「あの時ぶりだな。まさかアンタがこんなにすごい奴だと思ってなかった」
「いやいや……そんなことないよ」
本当に。凄いのはカラスの生態を明らかにした生物学者とそれに合わせた商品を開発したどこかの誰かであって私では無い。
というかカラス追い払っただけだしな……。
「そんなに謙遜することは無いと思うが。まあ、それもアンタらしさなのか」
少年は少し面白そうに笑う。
「オレはユノ。魔法帝になる男だ」
「え」
「ちょっと待てぇぇぇぇい!! 魔法帝になるのはオレだから!!」
「そ、そっかぁ……」
なんだか夢のある少年たちを見て微笑ましい気持ちになる。そういえば私も山手線に揺られているうちに目の前の現実しか見れなくなってしまったけど、小さい頃は女優さんになりたいとか言ってたな。
今世ではまだ15歳。人生これからだし、私も新しい夢とか持ってみてもいいかもしれない。
「アスタには負けないけどな。……とまあ、オレたちが魔法騎士を目指す理由はそんなところだが、ラルカはなんで魔法騎士に」
「ああ、それはね」
大好きな人の、背中を追って……。
恥ずかしげもなくそう口にしようとしたその時だ。
「そこの可愛いお嬢さん! もしかしてこれから試験を受けるの?」