第2章 魔導書
「帰っていたか」
ガチャ、という音と共に思考が遮断される。目を向ければたった今扉を開けて家の中へ入ってきた父の姿があった。
鋭い赤の瞳がこちらをじっと見つめている。
気まずい。が、余計なことを思い出しそうになっていた今、少しだけ存在が有難かった。
「うん…お帰りなさい」
それだけ言うと私は荒くなっていた呼吸を整え、「夜ご飯作るね」と父に背を向ける。
今日からはテフロン加工のフライパンが出せるしいつもよりヘルシーな料理になりそうだ。
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それから暫くし、気がつけば試験の日となっていた。
今日に至るまで家事の合間を縫って毎日魔法の練習をしていたが、残念なことに大きいものを作れるようにはまだなっていない。
朗報と言えばお気に入りのシャンプーから化粧水、メイク道具に至るまで女の必需品は全て再現出来たということだ。
「デパコスをタダで作れるの贅沢すぎる。魔法万歳!」
今日もお気に入りのピンクのリップを塗ってきた。
私は前世では思いきり日本人顔であまりピンク色が似合わなかったが、今世では母譲りの桃色の髪と父譲りの赤い瞳に肌は真っ白と来ている。メイクのしがいがありすぎる顔だ。
今日は調子に乗ってヘアセットもキメキメにしてしまった。こんな姿で街を歩いていると、アイドルにでもなったような心地で気分がいい。まあ服は作れないのでみすぼらしい下民ですが。
ほら、そこのカラスたちだって私に見とれてこっちに飛んでくるじゃない。
「……って!?」
カラスの群れがこっちに向かってくる!
噂によれば魔力量が少ないと寄ってこられるとかなんだとか……私は下民だし、たかられるのも無理は無い。とはいえせっかくのヘアセットが……!
思わず頭を守るように手で覆ってその場にしゃがみこむ。
しかし覚悟していた襲撃は訪れず、カラスたちはそのまま私の頭上を通過し私の背後へ一直線にすっ飛んで行った。
何が起きたのかと思い振り返れば、そこにはいつかの少年が。
「寄ってくんなァァァァ!!!!!」
えぇ……。
少年はありえない量のカラスを引き連れて大騒ぎしている。隣にいる黒髪の少年の方は平然としているが。
「さすがにちょっと可哀想かも……。よし、創造魔法『夢の具現化』」